男は皆、探検家だ。
「良いから、受け取れって」
キヨシが言った。
「中を見ろよ……兄貴が持ってりゃ
キヨシは、僕の肩をガシッと掴むと、
「お前は十四歳という若さで一人の女と婚約した。例のシステムで決まったって事ぐらいは聞いているが、詳しい経緯を俺は知らない。ただ一つ、これだけは言える。お前には経験が足りない……圧倒的に、だ」
「け、経験?」
「そうだ……いや、それは何も恥ずべき事じゃない。何しろ、まだ十四歳なんだからな。しかし同時に、婚約した以上……いずれ結婚する以上は、相手に対する責任というものも、ある」
「相手に対する……責任」
「そうだ……例えば、お前が一人の探検家だったとしよう……」
「僕が探検家って、どういう意味だよ」
「あくまで例えだ。いいから黙って俺の言うことを聞け。ある日、探検家であるサワノダ・コウジは、ジャングルの奥深く分け入った。雨上がりで、しっとりと濡れたジャングルだ」
「し、しっとりと、濡れたジャングル……」
「そうだ……ジャングルの奥深く、
「おい、キヨシ、何を言っているのか分からないぞ」
「良いから、最後まで聞け。二つの入り口のうち、一つは『正しい入り口』で、もう一つは『間違った入り口』だ。正しい入り口を選べば良し。財宝はお前の物だ。間違った入り口を選んだらどうなるか……正しい洞窟の
「地図?」
「とにかく封筒を開けて、中を見ろ」
居間の窓から漏れる薄暗い光の中、僕は封筒を開けて中を見た。
大判の雑誌のようなものが二冊入っていた。
ゆっくりと一冊目を出して見る。
まず雑誌のタイトルが目に入った。『いつもと違う穴』というタイトルが。
次に、雑誌の表紙を飾る女の人の顔が封筒から出てきた。次に、おっぱい。
雑誌を封筒から引き出すにつれて、徐々に女の写真が
どうやら女は上半身裸のようだった。体全体は後ろ向きで、首と肩だけをひねって、こちら側を……つまり、カメラの方を振り返っている。
女性が裸になっている写真を見たのは、その時が初めてだった。
僕の心臓が、ドキドキと早打ちを始めた。
とうとう一冊目の雑誌を封筒から出してしまった。表紙を飾る女の人の全身像が僕の目に飛び込んできた。
「どうだ、
まだ物資の不足しがちな時代、「戦前もの」という言葉は、かつて豊かだった時代に作られた物……戦後の粗悪品ではない良質な品、豊かさの象徴、という意味で使われていた。
たしかに、窓から漏れる明かりの下でも、それが高品質な
大きなお尻をこちらに向け、上半身をひねって、顔とおっぱいもちゃんと写るようなポーズを取った全裸の女の人。
しかもご丁寧に、両手でお尻の肉を左右に広げ、奥のほうまで良く分かるようにしている。
「これが、地図だ」
キヨシが自慢げに言う。
「これさえあれば『間違った洞窟』に入ることもない。いいか、良く見ろ。ここが……」
そう言って、僕の持つ雑誌に印刷された全裸女性の「ある部分」を指さす。
「正しい入り口だ……そして、こっちが……」
今度は、女の別の部分を指さして言った。
「間違った入り口だ。その雑誌には全ページ・カラーで色々な女の、色々な『正しい入り口』と『間違った入り口』の写真が載っている。男が『間違った入り口』へ入っていく写真が
「いや……やっぱり、僕、こんなもの受け取るわけには……」
「遠慮すんなって」
キヨシが僕の肩を叩く。
「俺らは親友だろ? 俺は、な、コウジ。本気で親友には幸せな人生を送ってほしいと思っているんだ。お前と、お前の婚約者……まだ、顔も知らないが……には、幸せになって欲しいんだよ。じゃあ、そもそも夫婦の幸せって、何だ? 俺なりに色々考え、調べて、そして出した結論が、これだ」
キヨシが僕の持っている雑誌のトントンッと叩いた。
「とにかく、こっちの満足度が高くないと、夫婦としては上手くないだろ。さあ、もう一冊のほうも出して見ろ」
僕は
二冊目のタイトルも強烈だった。
『ハイヒール・ビッチとランジェリー・タフガイ』
嫌な予感がしたけど、そうかと言って、雑誌を封筒から出すのを
今度もタイトルの下から出てきたのは女の人の顔だった。
真正面を向いている。みょうに
続いて、おっぱい。
右手に白いロープを持っている。ロープの一方の
女の人の腰のあたりまで封筒から出た。
「一冊目が『地図』なら……」
キヨシが言った。
「二冊目は『レシピ』だ」
「レ、レシピ?」
「そうだ。女っていうのは……色々なバリエーションを楽しみたがる生き物なんだよ。例えばお前が婚約者とアイスクリームを食べに行ったとしよう」
「アイスクリーム?」
「冷凍ショーケースには、様々な味のアイスが並んでいる……バニラ、チョコレート、ストロベリー、レモン、ナッツ、レーズン。
キヨシが僕の手元を指さす。
僕は、雑誌を封筒から抜いた。
全裸だと思っていた『ハイヒール・ビッチとランジェリー・タフガイ』誌の女は、全裸じゃなかった。
いや、ほとんど全裸だったんだけど、唯一、足にだけ真っ赤なハイヒールを
その、ほとんど全裸の女がハイヒールで踏んでいるのは……男の背中だ。
筋肉ムキムキで
細長いハイヒールの
禿げ男の首には犬の首輪が
しかも男は黒いレースのブラジャーとパンティーを着けていた。
……ハイヒール・ビッチと、ランジェリー・タフガイ……