そんなチートならお断りします。

露天風呂で、ごめんなさい。

「じゃあ、レディーファーストで良いっぺか?」

 食事のあとでアレックスが聞いてきた。

「いいよ。別に。行ってきなよ」

 俺は焚き火の前で木の根に寄りかかりながら言った。
 彼女が立ちあがって木々の向こうに歩いて消えた。

「アレックスかあ……」

 一人で焚き火の前に座って満月を見上げながら俺はつぶやいていた。

「ちょー俺の好みなんだけどなあ。しかもお姫様で上手くすれば逆玉で一生王族暮らしでウハウハなんだけどなあ。……でも、なんか聞いてると、中世ヨーロッパ風ファンタジー的異惑星だけあって、王さまの一族って、おきて関係が厳しそうなんだよな。四人いる姉さんたちとかって言うのも実態がわからんし。……権力闘争とかに巻き込まれたら嫌だな。それで負けて姉さんたちの誰かが実権を握ったら、他の姉妹は粛清とかされるんだろうか」

 俺は、焚き火の前で一人まじめな顔で、とらぬ狸の皮算用ならぬ、とらぬお姫様の巨乳おっぱい算用をした。

 そうこうしているうちに、アレックスが温泉から帰って来た。

「あー、良い湯だったっぺ」

 なぜか浴衣ゆかた姿で、手ぬぐいを使ってうなじの辺りを「トントンッ」なんてやって水気を取っている。

 あったか有効成分で肌がポーッとピンク色だ。

 薄い浴衣ゆかたを通して、豊満なアレックスの体のラインが浮き出ていた。

 明らかに、ノーブラ生乳なまちち状態だ。

 ……という事は、ひょっとしてパ……パンティも……

「ふう……昼間の疲れも温泉で流せたし、今日のステータスでも確認しておくっぺか……」

「ス、ステータスって、自由に出せるのか?」

「そんなの冒険者なら常識だっぺ。空に向かって両腕を『Y』の字に開いて、大声で叫べば良いっぺよ。『ステータス、オープン』って」

「へええ……」

「そんな事より、ドー君、ちょっとうしろを向いて欲しいっぺよ。レディーのステータスをのぞくのはマナー違反だっぺ」

「わ、わかった」

 俺が焚き火に背を向けると、うしろからアレックスが「ステータス、オープン」と叫ぶ声が聞こえた。

 当然のように、俺はこっそり、アレックスのステータスをのぞき見た。

――――――――――――――――――――
[アレックスのステータス]
名前:アレキサンドラ・メイン・ヒロインデス・イナカーノ

……中略……

経験値:処女
今のぱんつ:白のティーバック
体の状態:お風呂上りでホッカホカ&お肌つやつや。
――――――――――――――――――――

アレックスが満足げにうなづいた。

「うん。ばっちり、今日もすこやか、今夜もスヤスヤ、明日もさわやかに目覚めざめられそうだっぺね」

 ステータスを見て俺は思わず叫んでしまった。

「てぃ……ティーバックうううううっ?」

 はっとして、アレックスが振り返る。

「ああ! こらっ! 女の子のステータスを見るのはマナー違反だって言ったっぺよ! ドー君ったら、駄目だっぺ!」

「そ、そんな事より、あ、アレックス、お前、今、ティーバックいてんのか!」

浴衣ゆかたにティーバックは定番だっぺよ。とくにボクみたいにボリューミーなヒップの持ち主は、浴衣ゆかたを着るとお尻まわりの布がパッツン、パッツンになってパンティーラインが浮き出ちだっぺよ」

へ……へええ……勉強になるなぁ。

「だから、ボク何時いつもティーバックを愛用するっぺよ。ぱんつの色に関しても浴衣ゆかたから透けて見えない配慮が必要だっぺ」

なるほど、なるほど。

「本来、和服系はパンティーをかないのがいにしえよりの正統派フォーマル着こなし術だけど、さすがに乙女ちっくなバージンであるボクには、そこまでの勇気は無いっぺ」

「そ、そうなのか……」

「まあ、そんなことは良いから、ドー君も早く温泉にかって来るっぺよ。ああ、食器類はそのままにして置いて良いっぺ。あとでボクが洗っておくから」

「そ、そうか、ありがとな。じゃあ、お言葉に甘えて風呂に行かせてもらうわ」

「どうぞ行ってらっしゃい」

 アレックスに道順を教わって、アレックスが巨乳の谷間の四次元ポケッとんから出したタオルとプラスチックおけを持って、俺は温泉までの道を歩いた。

 森の中をしばらく歩いて振り返り、アレックスの姿が見えなくなったのを確認して、俺はタオルを口と鼻に密着させて「ふぉおおおっ」と思いっきり息を吸い込んだ。

「これが、さっきまでアレックスのおっぱいの谷間にあったタオルかっ! まだちょっと体温が感じられるぞ! ん~ん、妄想MAXぅううっ!」

 アレックスのおっぱいの谷間から出てきたタオルをフンガフンガしながら歩いて行くと、途中、清らかな小川があった。

(なるほど、さっきアレックスはここから水をんできたんだな。食器を洗うにも、わざわざここまで下りて来なくちゃいけないのか……アレックスの親切心に甘えちゃったけど、悪い事したな……)

 森の小道と小川の合流点から、百メートルくらい先に温泉があった。

 おれは久しぶりにサウナスーツを脱ぎ捨て全裸になって温泉に飛び込んだ。

「ふええ……極楽、極楽」

 満月の夜、月の光を浴びながら一人露天風呂に入るこの優雅さよ。

「ああ、俺、地球の暮らしとか、もうどうでもよくなっちゃったなぁ。この中世ヨーロッパ風異惑星に骨をうずめるのも良いかも知んない」

 そこで、ここが中世っぽい文明度だと気づく。

「あっ、でも文明レベルが低いと、庶民の暮らしとかは結構キビシイんだろうな。やっぱ、中世社会で暮らすなら最低限、王侯貴族にはって置かないとな。……つっても王さまなんて努力してれるものでもないし、どうしようかなぁ……アレックスのやつ、本気で俺を婿むこさんにしてくれねぇかなぁ」

 そのとき俺は突然、自称神様・通称斉藤次郎左衛門さいとうじろうざえもんジジイの言葉を思い出した。

 あれは確か、ワキガのニオイを倍増させようと、サウナスーツを着て激しいトレーニングに打ち込んでいたフィラデルフィア時代の事だ……

 以下、回想。

「良いか、ドーテー小僧よ……このワキガむんむんチートは確かに強力な武器じゃ。しかし、このワキガ・チートにもたった一つだけ弱点がある」

「じゃ、弱点?」

「そうじゃ……」

「このワキガ・チートは、風呂に入ってサッパリしてしまうと効果が無くなってしまうのじゃ。風呂上り直後からジャスト一時間のあいだ、な。空白の一時間という訳じゃ」

 以上、回想終わり。

 ま、良いや。
 いくら強力なチートのためとは言え、一生ふろに入らないって訳にもいくまい。

 俺は満月を見上げた。

 こういう場合ラノベとかだと、風呂に入っているのがヒロインとかだったりして、湯船から立ち上がるときに月の光が逆行気味にヒロインの体を照らしたりして、水しぶきがキラキラ~ンって光って、それを偶然主人公が見ちゃったりするんだよな……

 俺は何となく真似してみたくなって、勢いつけて湯船から立ち上がった。

 ざざーんっ!
 水しぶきを周囲に撒き散らしてみる。
 別に月の光を反射してキラキラ~ン、なんて事は無かったが。

 その時!

 森の中、ちょうど正面の辺りの茂みが「ガサガサッ」と音を立てた。

「誰だ!」

 俺は叫んだ。
 人影が「タッタッタッ……」と走り去っていく。
 どんな人物かは暗くて良く見えなかった。

 俺は風呂から上がって再びサウナスーツを着込み、アレックスの待つ焚き火の場所まで帰った。

「いやー、確かに良い湯だったよ。サッパリした」

 俺はアレックスに言った。

 周囲を見ると、食器類が無くなっていた。彼女がさっき言った通り、小川で洗ってくれたのだろう。
 いまごろは巨乳の谷間の中という訳だ。

 なんだか、アレックスの様子が変だった。
 俺と目を合わそうとしない。

「見てないっぺよ」

 このお姫さん、いきなり何を言い出すのか。

ボクは、ドー君の裸なんか見てないからっ」

「裸? どういう意味だよ。アレックス?」

「だから、ボクは、ドー君の裸なんか見てないし、おちんちんに北斗七星のような七つのホクロが有るなんて事も知らないっぺ」

「ホクロ? 確かに俺のチンコには北斗七星型のホクロが有るけど……お前、なにを話してるんだ?」

「だから、ドー君のおちんちんなんて見てないって言ってるっぺ。ついでに言うと、我がイナカーノ王家に代々伝わる聖剣は、おちんちんに北斗七星型のホクロがある伝説の勇者にしか扱えないっぺ」

「へええ、そうなんだ……じゃあ、俺なら聖剣あつかえちゃうかも? って、そんな訳ないよな」

「イナカーノ王家の女は、おちんちんを見てしまった男の奥さんにならなきゃいけないっぺ」

「それは、さっき聞いたよ」

「でもドー君が、ボク相応ふさわしいお婿むこさんかどうかを見極みきわめるまでは、ボクが見ちゃったって認める訳にはいかないっぺ」

「見ちゃった、って何のことだよ」

「何でもないっぺ!」