映画「死刑にいたる病」を観た
U-NEXT にて。
脚本 高田亮
監督 白石和彌
出演 岡田健史 他
2022年10月13日現在、私は原作小説を読んでいない。
ネタバレ注意
この記事にはネタバレが含まれます。
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ひとこと感想
まずは結論。
「演出は最高。ストーリーは凡庸」
ダブル・浅野といえば、温子とゆう子。
ダブル・クロサワといえば、アキラとキヨシ。
ダブル・白石といえば、晃士と和彌。
私は白石晃士監督の映画は何本か観ているが、和彌監督の映画を観るのは、これが初めてだ。
えらい腕のある監督だな、と感心した。
感心した点は色々あるが、やはり一番は、主人公の大学生と母親が内緒(ないしょ)の話をしていたら、いきなり父親が台所に入って来てビールを飲むシーンだ。
ただビールを飲んでいるだけなのに、ものすごい緊張感と怖さがあった。
留置所の面会室で向かい合った二人の顔がガラスに反射して重なり合う技法も素晴らしい。
ひょっとしたらアイディア自体は他の監督でも思いつくかも知れないが、白石監督が凄いのは、その角度や重ね合わせ具合などを絶妙に調整している点だ。
あるアイディアを思いついただけで終わらせず、それをちゃんとドンピシャの塩梅にまで煮詰めるセンスが素晴らしい。
連続殺人鬼の少年時代シーンになった時、子役の顔が阿部サダヲにそっくりで驚いた。
最後まで観終えたあと、ひょっとしたらあれはCGだったかも知れないと思い、気になってシーク・バーを巻き戻
してみた。
結果、顔の似ている子役に演じさせていると確認できたのだが、演出によって実際以上に「阿部サダヲに似ている」と観客に印象づけている事にも気づいた。
まず最初にバンッと真正面の顔アップを見せて、観客に一瞬だけ「あっ、似ている」と思わせて、それ以降は後ろ姿や遠目の横顔、短いカットをつないで最初の印象が壊れないように巧妙に編集されていた。
とにかく全編に渡って、白石監督の演出を堪能できて良かった。
彼の過去作品も観てみようと思う。
今月末から始まるアマゾン・プライム・ドラマ「仮面ライダー BLACK SUN」も楽しみだ。
ストーリーについて
お話そのものはオチが呆気(あっけ)なく、食い足りない。
阿部サダヲ演じる連続殺人鬼は、以下に示す2つの「悪しき属性」を持っている。
- 連続猟奇殺人鬼という属性。
- 他人の懐(ふところ)にスルリと入り込んで、彼らの精神を支配し操るサイコパス属性。
第1の属性が物語の大前提であるのは言うまでもないが、第2の属性も、かなり早い段階で観客に提示される。
最初は無愛想だった看守を、阿部サダヲは物語の前半で既に「手懐(てなづ)けて」いる。
看守の娘が読む「赤毛のアン」の話題をにこやかに話し、彼と良好な関係を築き上げている。
この時点で、他人の心を巧みに操るサイコパスであると分かる。
ラストで明かされた真実が何かと言えば、単に「目的と手段が入れ替わっていました」というだけの話だった。
◯前半の観客の思い込み
「第1属性である連続猟奇殺人こそが犯人の目的であり、そのための手段として第2属性であるサイコパス能力を使った」
◯ラストで明かされる真実
「第2属性のサイコパス気質を満足させる事こそが目的であり、第1属性である連続殺人は手段に過ぎなかった」
犯人の本質が連続殺人鬼ではなくサイコパスであると暴かれる事によって、「高校生しか殺さない」「被害者の爪を剥ぐ」という偏執狂的要素が犯人の行動原理から除外される。
その結果、
- OL殺人だけは彼の犯行じゃない
- 主人公は大学生だから犯人の対象外
という物語の大前提が崩れる。
物語の枠組そのものが読者に対するトリックになっているという意味では、叙述トリックに近い。
うーん……2時間の長編ミステリー映画のオチとしては、弱い。もの足りない。
物語の枠組そのものにトリックを仕掛けおいて、その程度かよ、という感じだ。
冒頭で提示した大前提のチャブ台がえし、というルール違反ぎりぎりの仕掛けで勝負するなら、「主人公は最初から幽霊でした」くらいの大技が欲しい。
それと、「話が出来過ぎている」感じも気になった。
冒頭ですれ違った怪しい青年が物語後半の重要人物だったり、その怪しい青年と犯行現場の森で偶然出会ったり、母親と犯人が顔見知りどころか、二人の間に浅からぬ因縁があると明かされたり。
リアリズムが全てじゃないとは分かっているつもりだが、ついつい「そんな偶然ってある?」と思ってしまった。
「実は、ガールフレンドも犯人の手紙を受け取っていて、既に彼の影響下にあった」という最後のオチも、いかにもって感じだ。
まあ、そもそもミステリーってのは、「出来過ぎな物語の、出来過ぎ具合を楽しむジャンル」なのだから、これで良いのかも知れないが。
最後に細かい所を3点。
- 犯人がOLを白昼堂々拉致するシーンが、現実味に乏しい。
- 効果音が少し態(わざ)とらしい。
- 主人公の父親が抑圧的なのは、まあ良いとして、顔に痣のある長髪青年の父親までもが抑圧的であるという設定は、ちょっとクド過ぎる。