青葉台旭のノートブック

「屍介護」を読んだ

「屍介護」を読んだ

作 三浦晴海

ネタバレ注意

この記事にはネタバレが含まれます。

ネタバレ防止の雑談

現在この「屍介護」は角川ホラー文庫から出版されているが、もともと小説投稿サイト「カクヨム」に投稿されていた。

私はアマゾンの検索でこの小説のタイトルを知り、キンドル版を買い、その後カクヨムでも読めると気づいた。

カクヨム版は読んでいない。
この記事には、角川ホラー文庫版(キンドル)に対する感想を書いた。

ちょっと前まで、ウェブ発の小説といえば所謂(いわゆる)『異世界もの』が圧倒的多数だった。

これからは異世界ファンタジーだけでなく色々なジャンルのウェブ小説が、紙の本として出版されるようになるかも知れない。

以上、ネタバレ防止の雑談でした。

以下、ネタバレ。

ひとこと感想

面白い。

久しぶりに面白い正統派ジャパニーズ・モダン・ホラーを読んだな、と思えた。

謎が暴かれる快楽

私が今まで漠然と感じていた事、この本を読んで明確になった事がある。

「謎が暴(あば)かれた時、人は快楽を感じる」

物語の冒頭〜中盤に次々と提示される多くの謎が物語の終盤で解明された時、何とも言えない快感が脳内を駆け巡った。

読者は無意識に「謎が暴かれる快感」を期待するから、謎が謎を呼ぶ中盤までの展開を「どうなるんだろう? どうなるんだろう?」とワクワクしながら読める。
次のページが気になってしまう。

その一方で、全ての秘密が暴かれた後は、物語に対する興味の大半が失われてしまった。

全てを知った主人公が、恐怖の根源(この小説では『鬼』と称される)に反撃を開始する展開は、アクション・エンターテイメントとしては正しい選択かも知れないが、反面、それによってホラーとしての格が落ちてしまったと思うのだが、いかがだろうか?

ホラーとエンターテイメント

仮に、至高のホラーを以下のように定義しよう。
『どう足掻(あが)いても恐怖の対象から逃れられず、最後に主人公が破滅する物語』

その一方で、アクション・エンターテイメントの王道は以下のようなものだ。
『正義の名の下に、主人公が必ず勝つ物語』

両者は本来、あい入れないジャンルだ。

もちろん妥協した上での共存は可能だろう。
100%ピュアなホラーをあきらめて妥協すれば、エンターテイメント的なオチを付ける事は可能、という意味だ。

10%なり15%なり、ある程度ホラーとしての面白さを捨てて、その分をエンターテイメント要素に割り振るのが、現時点でのホラー小説としての最適解なのだろうか?

……そうかも知れない。

結局のところスティーブン・キングを始めとする『モダン・ホラー』とは何かと言えば、純粋なホラーをあきらめる代わりに、『爽やかな読後感』『努力は必ず報われる』『正義は必ず勝つ』『勇気をふり絞って恐怖に立ち向かう姿勢は尊い』というエンターテイメントのお約束を手に入れたジャンルの事かも知れない。

それが、最大多数の支持を得るための最も効率的かつ効果的なレシピなのだろう。

伏線とオチの難しさ

私はこの作品を読んで『謎が暴かれる快感』に気づいた。

考えてみれば、推理小説は正にその快感の上に成立しているジャンルだ。

しかし人間とは不思議なもので、何の伏線も無しにイキナリ答えを提示されても快感は出て来ない。

物語の序盤から中盤で巧妙に伏線が張られ、答え合わせの時に「ああ、あの時のアレはそういう意味だったのか」と思えてこそ、「なるほど!」と膝を叩き、アハ体験の快楽に身を委ねる事が出来る。

一方で、あまりに明からさまなバレバレの伏線では機能しない。

チラ見せ・思わせ振りが伏線の真髄なのだろうが、その塩梅が難しい。

本作品には『ジガバチ』の生態の描写が、わりと唐突な感じで挿入される。
いわく『ジガバチは、獲物に神経毒を打って麻痺させ、巣に運び込んで卵を産み付ける』と。
まあ、多少なりとも古いホラー映画などを見ていれば、ピンと来てしまう伏線だ。

しかし、このジガバチの件(くだり)が無かったら、最後のオチを受け入れられなかっただろうな、とも思う。
このあたりの微妙な匙加減は難しい。

幸い、本作品は作者の構成の上手さもあり、また「ジガバチ」の伏線はメインの謎にまつわる物であるにせよ、この物語の前半〜中盤にかけて提示された多くの謎・伏線の一つに過ぎなかったため、私は後半の『解決編』までハラハラ・ドキドキして充分に面白く読めた。

結論

上記の繰り返しになるが、結論、面白かった。

  • 若くて、現代的で、好奇心と正義感の旺盛な都会育ちの女性が、ひょんなキッカケから、人里離れた森の奥深くに建つ古い屋敷に住み込む……というゴシック・ホラーの王道で始まり、
  • ボディ・スナッチャー的な1950年代SFホラー風の結末を迎え、
  • しかも『宮園妃倭子』という、貞子や伽耶子を彷彿とさせるJホラー的キャラクターが登場する。

という、ジャンル・ミックス・ホラー・エンターテイメントだった。

近い将来、映画化されるかも知れない。

機会があったら、カクヨム版も読んで文庫版と比べてみたい。

ちなみに『倭』という漢字は『魏志倭人伝』にも出てくる日本を指す言葉だが、差別的な呼称だ。
人の名前に付けるべき漢字ではない。

2022-06-21 11:28