映画「さがす」を観た
映画「さがす」を観た
渋谷シネクイントにて。
脚本 片山慎三、小寺和久、高田亮
監督 片山慎三
出演 佐藤二朗 他
ネタバレ注意
この記事にはネタバレが含まれます。
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ひとこと感想
面白かった。
……が、観る前の期待が大き過ぎたせいか、ものすごい大傑作とまでは思えなかった。
「まあ、わりと面白かったかな」
劇場を後にした時の私の体温を言葉にすると、こんな感じだ。
事前にネットでの評判を調べてみたら、とにかく各所で絶賛の嵐だった。
だから期待し過ぎてしまった。
話の構成
多くの人と同じように、私も映画を観る前にネットで評判を調べる。
もちろん細心の注意を払ってネタバレを避ける。
『さがす』に関しても同様だ。
しかし、「この物語には意外な展開がある」という情報それ自体を避ける事は出来なかった。
それが一体どんな物かは分からなかったが(あえて知ろうとしなかった)、どうやらこの物語には幾つかのドンデン返しが仕掛けられていて話が二転三転するらしい、という情報は、耳に入ってきた。
このあたり中々むずかしい問題なのだが、ドンデン返しの内容に言及していなくても、『劇中に大きなドンデン返しが用意されている』という情報自体が、すでに一種のネタバレであるとも言える。
結果、劇場に入る前から身構えてしまった。
映画の始まりから、無意識のうちに伏線を探してしまった。
無防備な状態で映画を観て不意打ちを食らう幸せは得られなかった。
この映画は、父親役の佐藤二朗が田舎家の庭先でカナヅチを振っているシーンから始まる。
ああ、この男は今から誰かと闘うんだな、きっとオープニング・シーンがラスト・シーンに繋がる円環構造なんだろうな、という所まで想像できた。
物語が進むにつれ徐々に真相が暴(あば)かれて行っても、そこまでの驚きは感じられなかった。
俳優たちのキャラクター造形
主要登場人物たちを演じる俳優陣が素晴らしい。
父親、娘、母親、殺人鬼、自殺願望のある女、みんな素晴らしかった。
母親の自殺未遂のシーン
このシーンが素晴らしい。
父親が家に帰って玄関の扉を開けると、母親が首にロープを巻いてベッドから転げ落ちている。
扉の外にいる父親はそれを見て『あっ』と驚くのだが、次の瞬間、表情がスッと消えて虚無の顔になるカットが差し込まれる。
一瞬だけ、男の感情が無の状態になる。その描写が素晴らしかった。
あの無表情は、一瞬の虚無を表しているのか?
それとも、のちに殺人の快楽に目覚めてしまう父親の『最初の目覚め』だったのだろうか?
その後のキス・シーンも素晴らしい。
父親が妻の首を絞めるシーン
このシーンも素晴らしい。
妻の首を絞め、結局、殺せず、地団駄ふんで泣き叫ぶ父親の姿を無音で(BGMだけで)映すシーンが素晴らしかった。
担任教師の家に泊まるシーン
このシーンも良い。
父親が行方不明になった少女を、担任教師は自宅に連れ帰って泊める。
玄関を開けると、家の奥から夫が出てくる。
そのとき担任教師が、少女に見えないように、夫に対して手をあわせるジェスチャーをする。「ごめん、話を合わせてちょうだい」という感じだ。
すると何かを察した夫は、にこやかに「さぁ、どうぞ中に入って」と少女を迎え入れる。
公平に言って、この担任教師は良くやっている。
身なし子になってしまった少女に対し、教師として出来る最大以上の努力をしている。
一緒に警察へ行き、人探しのビラ配りを手伝い、自宅に泊める。
彼女は良識ある善人だし、彼女の夫も良識ある善人だ。
それでも、担任教師は少女を救えないし、少女が教師に対して心を開くこともない。
中流以上の知的ホワイト・カラー階級民と下層階級民とでは、(比喩的な意味で)人種が違うからだ。住んでいる世界が違うからだ。
階級の違う者どうし、住む世界の違う者どうしが不用意に接近すると、お互い不幸になる場合が多い。
短時間ならまだ良いが、接近した状態が長時間続くと、お互い不幸になる確率が高まる。
だから人は本能的に、住む世界の違う相手と距離を取る。
カナヅチ
クライマックスの、父親が殺人鬼をカナヅチで殴るシーンは、いまいち迫力に欠けた。
もっと、こう、腰を入れて全力でブン殴らないとダメだ。
エピローグ
エピローグが素晴らしかった。
最初は妻を苦しみから解放するため、次に金のために殺人を手伝っていたはずが、最後に殺人鬼を殺し、自殺願望のある女を殺したその果てに、父親自身が殺人の快楽に目覚めてしまう。
それに気づく娘。
少女が父親を見つめて言った「やっと、みつけた」みたいなセリフが気になった。
あれは「母を殺した犯人を、やっと、みつけた。それは他でもない我が父だった」という意味だろうか?
書きながら気づいた。
ああ、なるほど、タイトルの『さがす』は、この「みつけた」っていう最後のセリフに繋がっているのか。
異世界感
大阪の貧民街と瀬戸内海の小島の、現実世界でありながら異世界に迷い込んだような感覚が素晴らしかった。