映画「この世界の片隅に」を、ぜひ多くの人に見て欲しい。特に十代後半から二十代前半の人たち。
*ネタバレ有り
映画「この世界の片隅に」が素晴らしかったので、ぜひ興行的にも成功して欲しいと思っている。
一般論として興行収入を見込める映画とは
単純なマーケティングの、あるいは算数の問題という話なら、できるだけ幅広い年齢層を対象にするという事が成功の確率を上げる近道だろう。つまり性的・暴力的表現を出来るだけ無くし、あるいはマイルドにし、ストーリー展開や描写を低年齢層でも理解できるようにして「大人から子供まで」楽しめる作品に仕上げるということだ。
小学生以下の年齢でも楽しめる作品づくりを心がければ、当然、一人の子供に対して最低一人は保護者が同伴するわけだから、仮に子供料金が半額だったとしても、子供一人あたり最低でも大人1.5人分の料金が見込めるわけだ。
一方、多くの一般高校生に支持されるというのも、アニメーション映画が興行的に成功する一つの方法だと思う。
ここで言う「一般高校生」というのは、コアなアニメ・ファンだけでなく、いわゆる「リア充」的な生活を送っている大多数の男子高校生・女子高校生にとっても魅力的な作品作りを心がけるということだ。
「女子高校生に支持されたものはヒットする」……私はマーケティングの専門家でも何でもないが、この格言めいた言葉を十数年前から何度も耳にしている。
……で、映画「この世界の片隅に」の話
この映画の興行的成功を願う私としては、さすがに小学生にはちょっと大人すぎる内容の映画だと思うので、成功の鍵を握るもう一つの年齢層、高校生や高校を卒業して間もない二十代前半の人たちに、ぜひこの映画を見て欲しいと思う。
「この世界の片隅に」にも恋愛要素はある。……ただし、それはややビター・スィートな大人の味だ。
やはり恋愛というのは人類共通の関心事で、とくに十代後半の頃というのは男子にせよ女子にせよ頭のなかは(多くの場合)異性の事で一杯になっているものだ。
そして、若い男女、とくに恋愛経験の少ない十代の人たちにとっての理想の恋は、やはり「純愛」という事になると思う。
親戚の女子高校生は、こう言った。
数年前、めったに会わない遠い親戚の女の子が私の地元にやって来て、少し話をしたことがある。
その少女は当時高校三年生で、既に大学から推薦入学の内定を得ていて、大人たちの「良いねぇ。これからの数年間が人生で一番楽しい時だねぇ」というお世辞というか外交辞令めいた言葉に返して、「はい。これから、たくさん恋をしたいと思います」みたいな事を言った。
それを聞いて大人たちが「やれやれ、言うねぇ」みたいな半笑い顔になった瞬間、その女子高校生は、こう続けた。
「たくさん恋をして、よーく相手を選んでから結婚したいと思います」
その、あまりに大人な女子高校生のセリフに、さすがの大人たちも一瞬「えっ?」という顔になった。まあ、次の瞬間、いっけん可憐な少女と彼女の言った大人っぽいセリフのギャップにみんな爆笑してしまったが。
「純愛」ばかりが男女の素晴らしさではない。
私の親戚の少女みたいな恋愛観が女子高校生においてどれだけ一般的かは分からないが、元男子高校生だった経験からすると、恋愛に関して十代の男は目先の事しか頭にない。
そういう意味では「純粋」だ。
映画においても、一途に初恋の相手を互いに追い求める純愛映画には、老若男女みんなの感情に訴えかけるものがあるのは事実だろう。
しかし、そういう初恋から一直線の恋だけが恋ではない事を、若い人たちにもぜひ理解していただきたい。
初恋だけが恋ではないし、私の親戚の女の子が言うように「よーく相手を選んだ結婚」でも、相手に対する思いやりの心を持って、ちゃんと信頼関係を築く事ができれば、それは素晴らしい男と女の営みだ。
「今、目の前にいる相手への思いやりと信頼のために、初恋を心の奥底に封印する」
それは少しビターだが、素晴らしくスイートな人のあり方だ。
男子高校生と女子高校生の皆さん。ぜひ、映画「この世界の片隅に」を観ていただきたい。