映画「この世界の片隅に」の夫・周作の重要性は、もう少し注目されても良いと思う。
*ネタバレ有り
もちろん、この物語は、すずという一人の女性の生き様を描いた物語である。
そして、そのすずを演じた女優「のん」の演技は突出している。
しかし、脇を固めるキャラクターたちとそれを演じた俳優・女優陣にも、もう少し注目が集まっても良いような気がする。
特に、夫・周作の立ち位置と、それを演じた細谷佳正のナチュラルな演技は、やはり重要だろう。
主人公すずにとって、結婚は18歳で突然に降って湧いた人生の転機な訳だが、夫・周作目線で言うと、彼にとってすずは少年時代に出会って一目ぼれをして以来成人するまでずっと思い続けていた少女だ。
彼は「すずは本当は幼なじみの水原が好きなのではないか」とか「すずは自分と結婚して本当に幸せだったのだろうか」という悩みを持っているが、彼自身のすずに対する愛情は子供のとき人さらいのカゴの中で出会って以降少しも変わらない。
そういう周作というキャラクターを細谷佳正は独特の枯れた声で淡々と演じる。彼の「枯れた声と淡々とした演技」が、ちょうど嵐の海に停泊した戦艦の碇のように、物語にしっとりとした落ち着きを与えている。
だからこそ、物語のラストですずが周作に言った言葉、この映画のタイトルでもある「ありがとう、この世界の片隅にうちをみつけてくれて」というセリフにも説得力が出るというものだ。
2016-11-25
22:34