「ジョブスが大嫌いだったスタイラスペンを出すとは、アップルも堕落してしまった」という人はアップルの恐ろしさを知らない。
常連A「やれやれ、この店も変わっちまったな」
常連B「ああ。人気が出たのは良いが、変な料理を出すようになっちまった」
常連A「この店もそろそろ……」
常連B「俺たちの居場所じゃなくなって来たな」
常連A「他を探すか」
常連B「そうだな」
アイパッド・プロとアップル・ペンシルが話題になっているが、実を言うと私も興味を持っている。
もちろん今すぐ必要ではないし資金もないので今は買わないが、これが第二世代か第三世代まで行った時には買うかもしれない。
いずれにしろ、レビューが出そろうのを待って、あるいは実機を触ってみてという事になるだろう。
というのも、私は以前から「手書き電子ノート」「手書き電子スケッチブック」のようなもので良い物がないだろうかといつも思っていた。
そのような商品は既にいくつか出ているが、正直言って、帯に短し襷に長しだった。
一番の問題は「遅延」だ。反応の遅さだ。
噂によると、アップル・ペンシルは遅延が少ないと聞く。本当にそうなら素晴らしい事だ。
さて、アップル・ペンシルについて「ジョブスはスタイラス・ペンが大嫌いだったのに、それを出すとはアップルも堕落したものだ」みたいな事を言う人がいる。
いつまでたっても「ジョブス、ジョブス」言われていては後に残された人も、たまったものではないだろう。
二言目には「ジョブスが生きていたら、こんなことはしなかった」という人は
「自分が正しいと思ったことをやれ、ジョブスならどうするかは考えるな」
というジョブス自身の遺言を思い出してほしい。
まあ、話によると新製品が出るたびに「昔のアップルはこんなんじゃなかった。アップルは堕落した」というのは、古株のアップル・ユーザーの決まり事みたいなのであまり気にすることもないという気はするが、広く世間一般に、アップルという会社の本質が誤解されているな、と思う事もある。
例えば、ジョブスが「スタイラス・ペンは嫌いだ」と言った時代背景を考えると、彼の言う「スタイラス・ペン」とは、アイフォン登場以前の「携帯情報端末」に必ず付属していた「感圧式タッチパネルを操作するための先の尖った棒」を指しているのではないか。
つまり「スタイラス・ペンが嫌い」というのは、意訳すると「スタイラス・ペンに象徴される『感圧式タッチパネル式の』ユーザーインターフェース」の不便さが嫌い、という意味ではないか。
そして、スタイラス・ペンを必要としない静電誘導式のタッチパネルを搭載したアイフォンの出現で、それまで複数の会社から発売されていた「感圧式+スタイラス・ペン」の携帯情報端末は一気に駆逐されてしまった。
アイポッドやアイフォンの発売で私たちが目の当たりにしたのは「最強の後だしジャンケン・メーカー」としてのアップルの凄さだ。
アイポッド出現前から「MP3携帯プレイヤー」は既にあった。色々メーカーから発売されていた。その中には、そこそこ売れた機種もあったように記憶している。
しかしどの機種も、これだ! という決定打にかけていた。
アイフォン出現前から「携帯情報端末」は既にあった。色々なメーカーから発売されていた。その中には、そこそこ売れた機種もあったように記憶している。
しかしどの機種も、これだ! という決定打にかけていた。
そこにアップルが、必要とされる要素技術が出そろった頃合いを見計らって新商品を投入し、一気に市場を刈り取ってしまった。
最後発のアップルが一気に市場を支配するための武器は、ユーザーから「うわっ、これ便利だ!」と驚かれるくらいの、斬新な、それでいて徹底的に煮詰められたユーザーインターフェース。
そしてハードウェア・ソフトウェアどちらも洒落ているデザイン。
アイパッドがどんなに便利でも、今までは、手書きのノートに勝てない部分がどうしてもあった。
そして、色々なメーカーが「手書き電子ノート」の類を色々出してはいるが、どれも帯に短し襷に長しで決定打に欠けていた。
「そこに需要があると誰もが分かっているのに、誰も決定打を打てていない状況」
これがアップルが最も得意とする分野だ。いわゆる「既存の商品の再定義」というやつだ。
この今の状況は、携帯音楽プレイヤーが一気に駆逐されたアイポッド出現前夜、あるいは、携帯情報端末が一気に駆逐されたアイフォン出現前夜を思い起こさせる。
実は、この「スタイラス・ペンによるタブレット操作」は日本メーカーのお家芸という所がある。
しかし過去二十年間、我々日本人が見せつけられて来たのは、かつて「日本のお家芸」と言われて来た分野が、ある日突然、アップルを始めとする海外メーカーに奪われるという盛者必衰の残酷さではないか。
あるいは「僕たちはアップルさんといっしょに良い製品を販売して、皆さんにクリエイティブな環境を提供しています」と、自分たちだけはアップル陣営の一員の様な気がしていたのに、ある日突然アップルからの受注が途絶えたり、アップル自身が競合商品を作り始めて、自分たちの製品が駆逐されるという、情け容赦の無さではないか。
ゆめゆめ、油断召されるな。