なろうテンプレとは何なのか

1.

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1、念のため、用語解説
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・テンプレ
 テンプレートの略。英語で「雛形」の事だが、「小説家になろう」サイト利用者は「ありがちな設定やストーリー展開」の事をこう呼ぶ。
「雛形」→「型にはまった」→「ありがちな設定やストーリー展開」という連想。
 2015年7月現在の「小説家になろう」において、ありがちと言われているストーリー展開としては「死亡して異世界へ転生」あるいは「気がついたら(特に理由も明かされず)異世界(ゲーム世界を含む)に居た」という「異世界転生・異世界転移」導入部がある。

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2、最初に「小説家になろう」トップページを見た時の驚きと違和感
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 数か月前、自作の小説をインターネットで公開しようと思い立ち、検索した結果、当たったのがこの「小説家になろう」サービスだった。
 他の同様のサイトに比べて、派手なバナーも少ないし、白地にグレーの細枠で統一されていて見た目スッキリ、しゃれている。なかなか良いではないか。

(ユーザー数も多いっていうし、どうせ投稿するならユーザー数の多いサイトが良いと思っていたから、ここにしようかな。どれ、ランキングでも見てみるか)
 などと思いながら、ランキング・ページを開いて驚いた。

 異世界、異世界、異世界、異世界、転生、転生、転生、転生……しかも何故なぜか「――が、異世界で、――しました。」みたいな長いタイトルばかり。
 あとで詳細に見て、全部が全部そればっかりという訳でもないと気付いたが、とにかく初見の印象は、こんな感じだった。

 「小説家になろう」ランキングを初めて見たとき、私が感じたのと同じような違和感と言うか、きつい言葉で言えば異様さを感じた人は多いのではないか。
 2ちゃんねるの「小説家になろう」関連のスレッドには「テンプレ」という言葉がしばしば出現することからも、良きにつけ悪しきにつけ「似たような設定やストーリー展開の作品がランキング上位に多く見られる」現象に関心を持つ読者は多いと思われる。

 ちなみに、私と同じように「小説家になろうテンプレ」の是非について、ひとこと言いたいユーザーも何人かいるらしく、2015年7月2日現在「小説を読もう」で「テンプレ」でエッセイ・ジャンルを検索すると、33件ヒットする。

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3、テンプレに対するユーザーのスタンス
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 テンプレに対するユーザー(作者および読者)の反応は大別して3つ。

「テンプレで何が悪いの? みんながそれを求めた結果なんだから、それが正解でしょ。俺もテンプレにしか興味ないよ。読者の好みに他人がどうこういう筋合すじあいはないよ」

「特定の設定やストーリー展開にランキングがかたよるのは、やはり正常ではない。テンプレをんでいなくても優れた小説はたくさんあるのに、それらが注目を浴びないのはさみしい」

「受け入れろ。これが現実だ。本当に書きたいものが何であれ、読者に受けたいのであれば自分の小説にテンプレを導入しろ。嫌なら、ポイントが増えなくても我慢しろ」

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4、本題に入る前に……「小説家になろう」運営者、あるいは自らサーバーを立てて公開するだけの技術力とボランティア精神のある人への提言
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 この「テンプレ展開の作品がランキング上位を独占している」ように見える現象は「小説家になろう」運営者側としても痛しかゆしと言った思いなのではないか。
 運営者側の基本スタンスは「法律・公序良俗・利用規約に抵触しない限り、ユーザーの投稿・評価行為に対し積極関与はしない」だろう。
 このスタンスはSNSの運営としては正しい。
 ポイントとPVなどを元に、一定の方程式にしたがって順位を付け、ランキング上位者をトップページに表示するのは、例えばポイントを「いいねボタン」に置き換えれば、YOUTUBEを初め、どこのWEBサービスでもやっていることだ。
 
 このランキングの算出方式を下手にいじって、たとえばテンプレ展開以外の作品が有利になるよう「ハンデ」を付けたりしたら「逆差別」になって、ユーザーから反発を食らう危険性がある。

 しかし、だからと言って、この状態を放置して良いのかという葛藤は、運営者側にもあるような気がする。
 それは、例えば「セカンド」ランキングを設けていることからもうかがえる。

 私は「小説家になろう」発足初期の頃の様子を知らないから、確かなことは言えないが、例えば「ジャンル別ランキング」は、上から順に「文学」「恋愛」「歴史」「推理」「ファンタジー」「SF」「ホラー」「コメディ」……となっている。
 このことからランキング上位をファンタジー・ジャンルが独占するとは、初期の頃には予測していなかったのではないか。

 このジャンル分けからは、ファンタジーやSFだけでなく、純文学や恋愛ものや歴史小説、ミステリー、エッセイ、詩など、多様な作品を投稿して欲しい(欲しかった)という運営者側の発足時の思いがうかがえる。

 こころざしうんぬんは置いておくとしても、実利の面から言っても、純文学やミステリーを志向する作者が「あのサイトはどんなに良い推理小説を書いても見向きもされないから」といって去っていく事態にでもなれば、長期的には「小説家になろう」サイトを衰退させる原因にもなりうる。

 私個人はファンタジーやSF志向の強い人間だが、「小説家になろう」というサイトは使えば使うほどデザインといいインターフェースといい良く出来ているので、特定のジャンルを書いている人だけでなく、ウェブで小説を執筆、発表したいと思っている多くの人に勧めたい。特定のジャンルの人だけが評価され、結果、特定のジャンルを書く人だけが利用するというのは、ちょっと惜しい気がする。

 今、「小説家になろう」に求められているのは、現在のランキング方法の変更ではなく、メインのランキングとは別の「権威付け」ではないだろうか。

 どのみち「小説家になろうランキング」であれ「Google検索」であれ、一つの権威には違いない。それらのランク付けが個人の恣意か、一定の方程式にしたがってコンピューターが算出したものか、という違いでしかない。

 そこで提案。
「評論家になろう」サーバーを立ち上げては、いかがでしょうか。
 もちろん「小説家になろう」とは全く別のアカウント認証システムで。
 つまり、例えば私なら「青葉台旭」とは別の「赤井川旭」アカウントを取得してレビューを書くためだけの専用サイト。もちろんレビュー対象は「小説家になろう」投稿作品。
 ここで重要なのは評論者「赤井川旭」と作者「青葉台旭」が同一人物であるとバレない事。
「小説家になろう」にもレビュー機能はありますが、あれは使いづらいのです。作者としての「青葉台旭」が人様ひとさまのレビューを書くというのは、恥ずかしがり屋の日本人としては敷居が高すぎる。

「小説家になろう」は一つのアカウントで複数のペンネームを使えるようになっていますが、あれはサークル名義でアカウントを取得して、そのメンバーが個別に投稿するためのもので、私がどんなペンネームで投稿しようとも、大元おおもとのアカウントが「青葉台旭」であることはバレバレなのです。

 そしてレビューの読者が、そのレビューに対してポイントを入れる訳ですが、個別のレビューランキングの他に、例えば「赤井川旭」が書いたレビューに与えられたポイントの総合計が「赤井川旭」自身のトータル獲得ポイントになって、それを元に「評論家ランキング」が算出される、と。

 いかがなものでしょう。
「小説家になろう」自身が運営しても良いし、ボランティア精神あふれる方が外部サービスとして立ち上げてはいかがなものでしょうか。

 それと、もう一つ。
 ポイントを有限にしたらどうでしょうか。
 一人の読者が一週間に発行できるポイントは30ポイントまで、とか。

 かりに「小説家になろう」ランキングを、現実世界の「オリコン書籍売り上げランキング」などと比べた場合、何が違うかといえば、オリコン書籍売り上げランキングは、それぞれの読者の(限りある)財布の中身が元になっている、ということです。

 対して「小説家になろう」においては、一人の読者が作品に与えられるポイントは無限です。ひとつの作品に与えられるポイントは最大10だとしても、それを何千人何万人に与えても、腹は痛まない。
 そうすると「慎重に吟味して作品にポイントを与えている読者」と「気安く誰にでもポイントを与える読者」の間に格差が生まれるような気がしているのです。

 以上、9割がた妄想でした。
 次章で本題に戻ります。

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5、テンプレのリスト
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 テンプレと呼ばれる要素は、いくつか存在する。

(a)異世界転移・転生
 現代の日本に生きている平凡な(しばしば社会的・性格的・能力的に平均以下の)主人公が、ある日とつぜん、気がついたら異世界に居た。あるいは一度死んで異世界に転生した、という所から物語が始まる。

(b)チート能力
 主人公は、異世界に行った時点で何らかの特殊能力を身につける。それは主人公だけが使える能力で、その能力のおかげで異世界人たちより優位な立場に立てる。

(c)ハーレム
 主人公は、複数の美少女たちから好意を持たれる。

 これ以外にも、たとえば女性向け作品におけるテンプレなど、いくつかテンプレ要素は有るが、省略する。
 後述するが、このエッセイの主旨は「真にテンプレと言える『絶対に外してはいけない要素』は、突き詰めると2つしかない」である。

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6、次第に募る違和感への違和感……「なろうランキングって、案外バラエティに富んでいるんじゃね?」
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 2015年7月2日現在の累計ランキング

 1位 無職転生 - 異世界行ったら本気だす -
 2位 謙虚、堅実をモットーに生きております!
 3位 異世界迷宮で奴隷ハーレムを
 4位 八男って、それはないでしょう!
 5位 ありふれた職業で世界最強
 6位 デスマーチからはじまる異世界狂想曲
 7位 異世界食堂
 8位 盾の勇者の成り上がり
 9位 転生したらスライムだった件
 10位 フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~

 これだけ見ても、実はバラエティに富んでいる事が分かる。
 中でも、7位の「異世界食堂」は全くテンプレではない。

 しいて言えば「中世ヨーロッパ・レベルの文明発展度において、現代日本の知識・技能を使って、ファンタジー世界の住人を驚かすこと、それ自体がチートずるい」という解釈で言えば、チート要素は入ってくるか。
 しかしテンプレ議論における「チート」要素というのが、現在ではかなり拡大解釈され過ぎている気がする。

 そもそも主人公が飛び抜けた能力を持つというのは、エンターテイメント全般の「お約束」で、それをわざわざ「チート・テンプレ」と称するのは、いかがなものか。

 チートとは、ずる、イカサマ、だます、という意味だが、コンピューター・ゲームの用語においては、プログラムの欠陥を突いて自分だけ他のプレイヤーより有利な条件(極端な強さなど)を手に入れることだ。
 転じて、物語において主人公だけが飛び抜けた能力を取得することを「小説家になろう」用語でチートと言う。

 では、スーパーマンが空を飛んだり、ウルトラマンがスペシウム光線を放ったり、仮面ライダーがキックをしたりすることもチートなのか。

 ハーレム・テンプレに関しても、上の十作品の中で、あからさまにハーレムを前面に押し出している作品は、ほんの数作品ではないか。

 つまり、よく言われる「チート」「ハーレム」テンプレは、累計ベストテンに入るための絶対条件ではないということだ。

 では「異世界転生(転移)」はどうか。

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7、それでも残るテンプレ感。「異世界転生(転移)」
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「異世界転生(転移)」は、どうか。
「現代の日本人が、なんらかのきっかけで異世界に行く(生まれ変わる)」
 これは、もう、ほとんどの作品が、序盤にこれを入れている。(異世界食堂をのぞく)
 これは徹底している。
 私の個人的な感想を言わせてもらえれば、上位作品がここまで徹底的にこのテンプレを踏んでるとなると、やはり、そこに「何故なぜなんだ」という違和感を覚えざるを得ない。

 例えて言えば「同じマッチョ・ファンタジーの古典なのに『火星シリーズ』は良くて『コナン・ザ・グレート』は駄目なのか?」ということだ。
 ジョン・カーターが現代の地球から火星に転移したのに対し、コナンは架空の国キンメリアの生まれだという、それだけの違いで、なぜそれほどまでに人気に落差が生まれるのか?

「コナン・ザ・グレート」の最初の一行に「鈴木一郎は、交通事故にあってキンメリアのコナンに生まれ変わりました」とでも付け加えれば、物語の面白さが倍増するとでも言うのか。

 そのくせ、2ちゃんねるなどには「転生前の描写なんかいらない」とか言う書き込みを時々見る。

 転生前の描写は要らないのに、転生したという事実は必要?
 どういう意味?

 もう一つ、テンプレがらみで私が強調したいことがある。
 これを指摘している書き込みをあまり見た事がないのだが……圧倒的に「主人公の一人称」が多い。
 異世界に転移した主人公の目を通して、異世界の風景・キャラクターが描写される。

 おそらく「異世界転生(転移)」と「一人称語り」はセットで考える必要がある。

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8、やはりキーワードは「ゲーム」か
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 なぜ、こうも徹底的に「異世界転生(転移)」「一人称語り」なのか。

 しばしば、人は言う。

「要するに『小説家になろう』っていうのは、現実世界での人生に不満を持つ若者たちが、満たされない欲望をファンタジー世界で味わうための媒体だろ」

「現代の日本人が感情移入するための装置として『鈴木一郎はキンメリアのコナンに生まれ変わりました』の一文が必要だし、『一人称』が多いのも『三人称』で書くより主人公を身近に感じられるからだろ」

 しかし、私は納得できない。

 ファンタジー小説が現実逃避なんて、昔からそうだろう。
 私自身SFやファンタジーを読み漁っていた十代を思い出してみても、そうだった。

 しかし私は、ファンタジー小説の主人公は日本生まれじゃなきゃ嫌だとか、地の文は一人称じゃないと感情移入できない、などと思ったことはない。

 ちゃんと外国人の主人公にも感情移入していたし、ファンタジー世界の住人にも感情移入していた。

 ハリー・ポッターが日本人じゃないとどうしても嫌だとか、指輪物語がフロドの一人称語りじゃないと読む気がしない、なんて話は聞いたことがない。

 なぜ、こうも「小説家になろう」上位にランクされている作品は、「異世界転生(転移)」と「一人称」が圧倒的に多いのか。

 正直、確かな事は分からない。

 ただ、やはり仮説として「コンピューター・ロール・プレイング・ゲーム(以下RPG)」との関連は有力だろう。
 つまり、こういうことだ。

「現代の若者は『小説家になろう』の小説を読むことで、

 いわゆるVRMMOものであるとか、ファンタジーであるとか、というジャンルの話ではない。

 VRMMOだろうがファンタジーだろうが、そこに描かれ、一人称で語っている主人公は、実は、真の主人公ではない。

 読者が真に感情移入しているのは、その主人公を、裏で、ゲームパッドを使って操作している目に見えない(決して描写されない)プレイヤーなのでは、ないか。

 だから、ファンタジー世界に唐突に「現在のステータス:Lv1」とか出てきても、まったく違和感を覚えない。だって最初からゲームだもん。

 その小説がVRMMOものなのか、ファンタジーなのかをわざと曖昧あいまいにしている小説も多いし、そもそもがRPGゲーム攻略を疑似体験するのが目的なら、そんなジャンル分けには意味が無い。

 主人公には、物語世界の主人公としての役割とは別に、そのゲーム世界を解説しながら攻略するプレイヤーとしての役割も与えられる。

 だから、主人公は、物語序盤において現代日本人プレイヤーとしての役割を演じさせられ、しかし、陰の主役たるプレイヤーとしての描写は最小限に抑え、そこからすみやかに異世界へ飛んで、ゲームをスタートさせなければいけない。
 そして、物語の進行中、すなわち、ゲームの進行中、常にゲーム画面に見えるものを一人称語りで、つぶやき続けなければいけない。
 それが、物語の主人公であると同時に、その主人公を操っているプレイヤーに課せられた義務だから。

 これが三人称だと、物語の主人公との一体感、ではなく、その主人公をブツブツ独りごとを言いながら操っているであろう(架空の)プレイヤーとの一体感が得られない。

 そもそも、主人公の特異能力をわざわざ「チート」などとゲーム用語で称すること自体、読者が「小説家になろう」作品をゲームの一種、すくなくともその比喩として見ている証拠ではないか。

 以上が、現時点で私が考えている「なぜ『小説家になろう』には異世界転生(転移)かつ一人称が多いのか」に対する仮説である。

 これは、自分の生まれた年がドラクエの発売日よりも後だったデジタル・ネイティブの感覚だろう。
 正直、オールド・タイプのおじさんには付いて行けない部分もある。
 しかし、そういうデジタル・ネイティブ世代が多数派である「小説家になろう」に小説を投稿する以上、かれらと、どう向き合うのか、あるいは向き合わないのか、は、決めておいたほうが良い気がする。

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追記その1、長いタイトル
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「一瞬で流れてしまう更新のタイムラインで、少しでも目立つためには、内容を簡潔にあらわした長いタイトルでなければいけない」

 これも、よく言われる。
 しかし、実際、累計ベストテンを見てみると……

 2015年7月2日現在の累計ランキング

 1位 無職転生 - 異世界行ったら本気だす -
 2位 謙虚、堅実をモットーに生きております!
 3位 異世界迷宮で奴隷ハーレムを
 4位 八男って、それはないでしょう!
 5位 ありふれた職業で世界最強
 6位 デスマーチからはじまる異世界狂想曲
 7位 異世界食堂
 8位 盾の勇者の成り上がり
 9位 転生したらスライムだった件
 10位 フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~

 確かに平均的には、長いタイトルが多いが、すごく長い、という程でもない。
 まあ、確かに、こうして見ると物語の内容を簡潔に表しつつ、見た者に瞬間的に「おや?」っと思わせる題が多いには、多いな。

 あと「異世界」キーワード。トップ10のうち5作品というのは、やっぱり多すぎる。

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追記その2、改行・空行の多いスタイル
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 私も、ブログやエッセイを書くときは、読みやすいように空行を入れているが、小説にやたらと空行を入れるのは好きではない。
 しかも、私の持っているスマートフォンは、一時流行した「ファブレット」というやつで、タブレットとスマホの中間くらいの大きさの、たとえば画面なんかはキンドルなんかより大きくて見やすいやつだ。
 だから、空行なんか無くても充分に読みやすい。
 しかし、アイフォンなどからの閲覧も多いであろうことを考えると、やはり空行は入れたほうが良いのかな? と、迷ってしまう。結論は出ていない。

 ちなみに、このエッセイには、空行を多めに入れておきました。
「―――――」などという、区切り線も入れてみました。