3.
アパートの駐車場でスュンが小柄なハッチバックに乗り込むまで、俺と彼女は一緒に歩いた。
慎重に。互いの体に近づきすぎないように。
スュンが
……いや、これは魔法じゃない。ただのキーレス・エントリーだ。
そして誰もドアノブに触っていないのに、ひとりでに運転席側のドアが開いた……これは、スュンの魔法。
彼女は「じゃあ、いってきます」と言って鉄製のボディに触れないよう慎重に
この小洒落た小粋なハッチバックは、ボディこそ市販車そのままの塗装された鋼鉄だが、内装は、徹底的に金属露出部分をプラスティックや革などの素材で覆うか、さもなければ金や銀などの貴金属に置き換えられていた。
外から見ただけでは
まったくエルフというのは豊かな種族だ。
金属アレルギー体質の自分たちが暮らしやすいように、身の回りの品々に、これでもかと高価な貴金属類を使う。
まあ、そのおかげで、スュンにとって暮らしやすい場所とは言えないはずの日本で、こうして俺と二人、どうにかこうにか暮らしていける訳だが。
外側は
駐車場を出て行くスュンの
俺自身は、クルマを持っていない。
さすがに運転免許だけは取得したが、運転するのはスュンと二人で出かけるときくらいか。
まあ、それでも公共交通機関の発達したこの街で不便を感じた事は無い。
このアパートから駅までは歩いて十五分。
スュンに駅まで送ってもらえば良いようなものだが、別に歩くのは苦じゃないし、よほど荒れた天気でもない限り、俺は自分の足を使う事にしていた。
朝の日差しを浴びながら散歩気分で駅に向かうのも悪くない。
閑静な住宅街を歩きながら、俺は今朝の異様な出来事を
(俺の身に突然起きた現象……魔法が絡んでいるのは、まず間違いない……となれば、
とにかく、もう少しデータが欲しい……俺は、そう思った。
今日の夜、スュンと二人で実験をしてみよう。
駅に着くまでの間、そんなことを考えていた。