「化物語 下」を呼んだ
「化物語 下」を呼んだ
作 西尾維新
ネタバレ注意
この記事にはネタバレが含まれます。
ネタバレ防止の雑談
あらためて、ライトノベルについて勉強している。
「ライトノベル・クロニクル 2010ー2021」によると、ライトノベル業界には『読み継がれる名作がほとんど存在しない』らしい。
古典に相当するものが存在しない。
昔どれほど売れていたとしても、古いラノベは単なる古くさいラノベ。今となっては誰も読まない。見向きもしない。
大事なのは「今の流行」だけ。
そんな中で、10年以上前に初版が出ているにも関わらず、今でも新規に十代の読者を獲得している「モンスター作品」があるらしい。
ひとつは、川原礫の「ソードアート・オンライン」シリーズ。
もうひとつは、西尾維新の「物語」シリーズ。
そこで勉強のためまずは西尾維新から読んでみることにした。
以上、ネタバレ防止の雑談。
以下、ネタバレ。
西尾維新の筆の速さについて
西尾維新についてネットで調べてみると、どうやら彼には二つの特徴があるらしい。
- 毎日2万字とも3万字とも言われる記述量。その速度。
- 「言葉遊びの天才」とも称される文章の特徴。
この二つの特徴は、おそらくコインの表裏だろう。
毎日2万〜3万文字もの量を書くという筆の速さに関しては、素直に羨ましい。
私の場合、一番多く書いた日で、1万2千文字ほどだった。
それも言ってみれば「瞬間最大風速」だ。
毎日その量をこなしていたわけじゃない。
毎日毎日、コンスタントに2万〜3万文字もの文章を書けたら、かなり文章生活の自由度が上がる。
3万はともかくとして、とりあえず毎日2万文字を目指してみよう。
「化物語」は、良く出来たライトノベルだった
ライトノベルとして、かなり良く出来ていると思った。
なるほど、これは売れて当然だな、と。
ライトノベルとは、十代の少年(男の子)を主な読者とするエンターテイメント小説のことだ。
早熟なら小学校高学年あたりから読み始め、中学・高校で最も熱中し、大学生になると少しずつ『卒業』する者が現れ、社会人になると『かつて熱中した御贔屓(ごひいき)のシリーズを惰性で買う以外は、興味をなくす』
これが典型的なライトノベル読者のライフサイクルだろう。
この「化物語」は、ライトノベルど真ん中の読者層より、やや高学年を狙っている。
高校生・大学生・若い社会人あたりまでがターゲットだろう。
その「ちょっと高めのポジション取り」も含めて、ライトノベルの戦略として上手い。
設定もライトノベルの王道を外さない。
陰キャの男主人公の周囲に集まる、バラエティ豊かな性格・特技・外見・年齢の美少女たち。
いわゆる「日常系ハーレム学園もの」
さらに少年ジャンプっぽい妖怪系の超能力アクションが加わる。
ジャンル的には直球ど真ん中のライトノベルだ。
言葉遊び
西尾維新についてネット検索すると、彼に『言葉遊びの天才』という称号を冠した記事を目にする。
その意味も『化物語』を読むと良くわかる。
主人公の少年が『ツッコミ役』になり、彼を取り巻く(極端な性格の)美少女たちが『ボケ役』となって、いわゆる『ボケ・ツッコミ』漫才のような会話が延々と続く。
驚くのは、その物量だ。
調べた訳ではないが、感覚的には、全体の分量の半分以上がこのボケ・ツッコミ・ギャグ会話で埋められている。
しかも、学園ハーレム・ラブコメとしての本分を外さず、ギャグ会話が単なるギャグでは終わらず、ちゃんと胸がキュンキュンする恋人同士のイチャイチャ・ラブラブ会話にもなっている。
ライトノベルとして良く出来ているのは確かだが、しかし……
十代の少年に向けたエンターテイメントとしては、ほぼ満点の本作品だが、しかし、少年時代を遥か昔に終えた私にとっては、あまりにもライトノベルに最適化され過ぎていて、だんだん読むのがキツくなってしまった。
西尾維新の持ち味として第一に挙げられるボケ・ツッコミ・ギャグの連発にしても、ここまで延々と繰り返されると、胸焼けがして胃にもたれる。
甘いケーキが甘くて美味しいのは1個か、せいぜい2個までだ。
ケーキのフルコースだの食べ放題だのという代物があったとしても、十代の頃ならまだしも、歳を取って胃が弱くなった今の私が食べたら、消化不良を起こすだろう。
胸キュン・ギャグ会話も同じだ。
上巻を読み終えて下巻に入る頃には、連発されるギャグに飽きてしまった。
ひとたびボケ・ツッコミ・ギャグの応酬に飽きてしまうと、今度はストーリーの起伏の無さと、妖怪・超能力アクション・シーンの説教臭さが気になってしまった。
せっかくのアクション・シーンの気持ち良さが説教で削がれているように感じた。
書く速度と言葉遊び
これは私の直感に過ぎないのだが……
おそらく次々に繰り出されるボケ・ツッコミ・ギャグの応酬という作風と、1日2万〜3万文字もの文章量との間には、密接な関係がある。
本作品を読むと「作者の脳内に次々浮かび上がった言葉を、脳に直結した指先とキーボードを通して生のまま紙の上に焼き付けているんだろうな」という感想を持つ。
脳内で連鎖反応的に次々生み出される言葉を、自動書記のように書いているのだろう。
それが筆の速さの秘訣か、とも思った。
脳内で連鎖反応的に次々生まれてくる言葉を、生のまま紙面に焼き付けるというスタイルには、良い面と悪い面があると感じる。
良い面は、やはり『生の言葉』であること、その軽妙なリズム感だろう。
悪い面は、脳内の言葉を磨かぬままアウトプットしているので、雑味が多いことだ。
雑味が多いから、心にズバッと切り込んでくるシャープさに乏しい。研ぎ澄まされている感じがしない。
それを物量で補うという戦略は、ライトノベルとして正解の一つだとは思う。
しかし、いつか飽きる。
化物語とは別のジャンルのライトノベル
「化物語 上」の奥付を見ると「2006年11月1日 第1刷発行」とある。
実際に読んでみて、まさに2000年代(ゼロ年代)を代表するような『日常系学園ハーレム・ラブコメ+ちょっと不思議』ジャンルのライトノベルだった。
それが2021年の今でも少年たちを虜にし、新規に十代の読者を獲得しているとするなら、『日常系学園ハーレム・ラブコメ+ちょっと不思議』というジャンルには時代を超えた普遍性があるのかもしれない。
あるいは、時代を超えた普遍性を持っているのは、『少年少女が交わす胸キュン・ボケ・ツッコミ・ギャグ』大量投下爆撃の方か。
ただ、今の私は日常ラブコメに対してそれほど興味が持てなくなってしまっている。
もう少し起承転結のハッキリした、ギャグ控え目・シリアス冒険多めの物語で勝負したい。
次は「ソードアート・オンライン」を読む
ライトノベルとは何か、を探る旅は続く。