映画「マルタの鷹」を観た。
映画「マルタの鷹」を観た。
amazon video にて。
1941年版
脚本 ジョン・ヒューストン
監督 ジョン・ヒューストン
出演 ハンフリー・ボガード 他
ネタバレ注意
この記事にはネタバレが含まれます。
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5回書いたからセーフ。
ひとこと感想
諸説あるが、一般に「フィルム・ノワール」と呼ばれる作品群の、その最初の作品と言われている映画。
良い意味でも、悪い意味でも、「ストーリーを語る」事だけに集中した作品だった。
良い意味で、「話を進める事だけに集中した演出」
無駄なカット、装飾的なカットが全く無い。
過剰な演出が全く無い。
だから話がサクサクと進んでいく。
ひょっとしたら、予算、撮影時間、上映時間などの制約ゆえだったのかも知れないが、過剰演出に塗(まみ)れた現代の映画を見慣れていると、かえって新鮮に思える。
私ごとを言わせてもらうと、年齢のせいか現在興行している映画のリストを見ても、今ひとつ食指の動かない自分が居る。
最近、鬼面人を威(おど)すような過剰演出に耐えられない自分が居る。
その反面、1940年代から50年代にかけての映画に対する興味が増している。
一概には言えないが、1940年代・50年代の映画には、「まずは語るべき物語があり、その表現手段として演出がある」という前後関係があったと思う。
悪い意味で、「話を進める事だけに集中した演出」
それにしても、話の進め方が事務的すぎる。
主人公をはじめ、登場人物が長ゼリフを早口でしゃべり、物語を説明してどんどん前へ進めていく。
あまりに抑揚が無さすぎた。
陰影について
さすがに「ノワール(=黒い)」というだけあって、白黒のコントラストがハッキリしていて、影が真っ黒だった。
昼間のシーンが少なく、夜または室内のシーンばかりだった。
ハンフリー・ボガードについて
顔の美醜が全てとは言わないが、あまりに「そのへんのオッサン」過ぎる顔立ちだ。
声も甲高いし、なぜ彼がスターだったのかと、現代の感覚からすると若干首を傾げてしまう。
ただ、オーソン・ウェルズらにも通じる、ある種の「お茶目で憎めない悪ガキ感」は確かにある。そのあたりが人気の理由なのだろうか。
秘書エフィ・ぺリンについて
原作を読んだ時、秘書エフィ・ぺリンの人物造形に興味を持ち、また困惑もさせられた。
映画を観たら、結構な年増女という設定だった。
演じたリー・パトリックは、1901年生まれ。
1941年の映画公開当時は、ちょうど40歳か。
なるほど、40歳で母親と二人暮らしの独身の女性という設定か。
主演のハンフリー・ボガードは公開当時42歳。
仮に、役者の年齢=演じたキャラクターの年齢だと仮定すると、42歳の主人公サム・スペードにとって、40歳のエフィ・ぺリンは、部下であり、愛人であり、ある意味では母親役でもあり、女房役でもある、という設定か。
そう考えたら、彼女のキャラクター造形に納得できた。
原作に忠実だった
原作を読んでから映画を観た。
ほぼ、原作に忠実と言って良いかも知れない。
省略されて残念だなと思った点が二つある。
- 主人公は、殺された相棒のマイルズに対し、これっぽちも友情を感じていない。それどころか、近々、マイルズを解雇しようと思ってさえいた、という原作の描写がカットされていた。
- ラスト直前、ヒロインに対して報酬の一部をネコババしたという疑いをかけ、キッチンで全裸にさせ身体検査をするシーンが原作にはあるが、これがカットされていた。
1について。
主人公が、殺された相棒に対し全く友情・信頼を持っていないという描写が無いため、ラストでヒロインを警察に突き出した理由が、あたかも「親友を殺した犯人に対する復讐」であるかのような印象を受ける。
実際には、主人公サム・スペードは、相棒マイルズに毛ほどの友情も感じていないし、個人的には、彼が死のうが知ったこっちゃ無いと思っている。
では、なぜヒロインを警察に突き出したかといえば、相棒を殺されて犯人も捕まえられないようでは、探偵稼業の看板に傷がつくからである。
要は、職業人としての業界内での信用・メンツを守るために、ヒロインを警察に売ったのだ。
原作の方が、主人公サム・スペードの、正義なんぞ少しも信じちゃいない冷酷ぶりが強調されていると思う。
2について。
ラスト直前、主人公がヒロインを全裸に脱がして身体検査をするシーンが原作には有るのだが、二人の対決を予感させる重要なシーンであるにも関わらず、これが映画版では省略されていた。
これは加虐的・被虐的エロスに満ちていて興奮するシーンでもある。その性的な興奮の余韻を引きずった上での、主人公がヒロインを攻め立てて警察に突き出すというラスト・シーンなら、物語のダークさが、さらに強調されたと思う。
ただし時代を考えれば、倫理的な問題から映像化は無理だったのかも知れない。
結論
陰影のくっきりした暗い絵作り、無駄な装飾的カットの無い演出という美点はあるにせよ、飛び抜けた名作、傑作かと言われると、首をかしげざるを得ない。
明るく華やかで楽しく楽観的な作品ばかりを作ってきたハリウッドが、世界の暗部・人間の心の暗部を描き出す「ノワール」作品群を作り始める、その切っ掛けとなった最初の作品という歴史的な価値が大きいか。