出発。(その9)
センターラインを
上下二連射式のショットガンを抱え、ハンターベストのポケット一杯にスラッグ仕様の
(宇宙人どもめ! 貴様らの思い通りにはならんぞ! この山比戸村は
* * *
十年前の山比戸村UFO騒動の頃には、既に奴らの侵略が始まっていたのだ!
……弦四河は、そう思った。
人間の体を乗っ取り、精神を乗っ取り、巧妙に
今にして思えば、UFO騒動が不自然な形で沈静化したのも、マスコミの中枢部が宇宙人に乗っ取られたからだろう。
つまり村の経済は、奴らの隠蔽工作の犠牲になったという訳だ。
騒動が収まったとたん、全ての責任を村長の
そして昨日、とうとう奴らは動き出した!
それまで
そして……タクヤまで……
タクヤは……卑劣にも母親に化けた宇宙人に油断してしまい、左の肩に噛みつかれてしまった。
……いや、違う……タクヤ自身が宇宙人だった……宇宙人がタクヤに化けていたんだ……そして
* * *
弦四河厳十郎の記憶は、孫にスラッグ弾を撃ち込んだあたりで
(タクヤは……孫は……母親に化けた宇宙人に殺されたのか? それとも、孫の姿に化けた宇宙人をこの
数分間の
(どちらでも同じことだ。とにかく人間の姿に化けた卑劣な宇宙人にタクヤは殺された。
クルマを使って集落から逃げようとする宇宙人が居たとしても、道路の真ん中に横向きに駐車している軽トラが邪魔で前へは進めない。クルマを停車させ、車外に出たところを狙い撃つ……
弦四河厳十郎は森の中から路上の軽トラックを見つめ続けた。
* * *
住人の銃殺死体が散乱する集落を抜け、再びハイブリッド・カーとSUVは民家の無い区間に入った。
広域農道を境界線にして、片側には森が広がり、反対側に水田が広がる。
農夫が一人、道路の
(また、スラッグだ)
徐々に精神が麻痺し始めているのか、グロテスクな顔の傷を見ても以前ほどショックを受けなかった。
(先ほど通過した集落の「噛みつき魔」たちは
破壊され水に浸かった後頭部の周囲で毛髪がゆらゆらと揺れていた。
その毛髪のあいだに頭を潜り込ませるようにして無数のオタマジャクシがうじゃうじゃと群がっていた。
……そう言えば蛙の子は雑食だったな、と、太史はボンヤリ思った。
* * *
集落を出て一キロほど走ったところに軽トラックが放置されていた。
ちょうど道のド真ん中に横向きに駐車していて、右側からも左側からもすり抜けできない。
「いったい誰だよ! こんな所に、こんな向きでクルマを置きっぱなしにする奴は」
ぼやきながら風田は仕方なしにハイブリッド・カーを停車させた。
後ろのSUVもそれに従う。
メイン・スイッチを切って、シートベルトを外したところで、後ろから禄坊太史に声を掛けられた。
「外へ出るんですか?」
「ああ……軽トラックの様子を見て来る。トラックの中にも周囲にも『噛みつき魔』は居ないようだし……イグニッション・キーが付けっ放しかもしれない。その場合は乗り込んで軽トラを邪魔にならない位置まで動かす」
「き、気をつけてくださいよ……噛みつき魔も、ですが……『猫』の方が危険だ」
「そうだな。さっきの大剛原さんを見て思ったよ。銃を持っていても手ごわい相手だ」
ゲートボール場での一件を思い出して、風田はゴクリと唾を飲み込んだ。
「まして俺は拳銃どころかナイフ一丁さえ持っていない……それでも行くしかないさ。運が良けりゃ、すんなりF市の中心部へ行ける。運が悪けりゃ……」
「代わりに僕が運転を……ですか?」
「ああ。頼む。いったん切り返して、もと来た道を戻るんだ。そっから先のルート選びは禄坊くんに任せるよ」
「任せるよ、って言われても……」
「じゃあ、そういう事で」
運転席のドアを開け、風田は農道へ出た。サッと風が吹いて頬を
(噛みつき魔と猫さえ居なけりゃ、
* * *
道路わきの木に身を隠していた
その後ろに車高が高めのクルマが停車した。四輪駆動車風の格好をしたクルマだった。
前に停まったハイブリッドの運転席から男が出てきた。
三十歳くらいだろうか。
人間か? それとも宇宙人が化けているのか?
……分からない……が……既に
上下二連発の猟銃を構えなおし、照星ごしに男の顔を見つめた。
(急ぐ必要は無い。じっくりと狩りを楽しもうじゃないか)
* * *
周囲に気を配りながら、風田はゆっくりと軽トラへ歩いて行った。
恐る恐る窓からトラックの中を
ホッとしながら運転席側に
……開いた。
軽トラのドアはロックされていなかった。
あわててイグニッション・キーを探したが、残念ながら見当たらなかった。
(そうそう上手くは行かないか……)
前輪の角度を確認し、ギアがニュートラルに入る事を確認して、パーキング・ブレーキを解除した。
ドアを開けっ放しにして運転席の横に立ち、
少しだけ動いた。
(行けるぞ。禄坊くんと二人掛かりで押せば何とか道路わきに軽トラを寄せられそうだ。車一台通過できるスペースは確保できるだろう)
いったんハイブリッド・カーに戻り、ドアを開けて太史に言った。
「禄坊くん、手伝ってくれないか。二人でやれば、案外簡単に動かせそうだ」
「ええ? ぼ、僕がですか?」
「他に誰が居るんだ? あとはクスリの抜け切らない女子高生と小学生が二人だけだぞ」
「わ、わかりました……
後部座席の真ん中に座る太史が、窓際に座る隼人に言った。
隼人はドアを開けて
「俺は運転席の横から軽トラを押すから、禄坊くんは車体の真後ろへ
歩きながら風田が太史に言った。トラックを動かすことに夢中で「ドア・ロックを掛けろ」と、隼人に念を押すのを忘れていた。