少年は少年漫画を読み少女は少女漫画を読み男はエロ雑誌を眺め女はファッション誌を眺めていた。かつては。インスタグラムどうする?
今さらだが、インスタグラムなるSNSが流行っているらしい。
SNSとは何ぞ、ソーシャル・メディアとは何ぞ、という事を日頃考えている私としても無視できない存在だ。
それで、インスタグラムに投稿されている写真を時々ながめている訳だが。
たしかに、インスタグラムに投稿される写真には独特の雰囲気というか傾向があるな。
「わざと画質の悪いトイカメラ、インスタントカメラを演出したような画像処理」は、もはや高級な一眼レフなどでも定番のアイテムなのかもしれないが、やはりインスタグラムに於いては、その「トイカメラやインスタントカメラを模した写真」の比率が圧倒的に高いか。
インスタグラム=インスタントカメラ・シミュレーター
インスタグラムという名称からして、おそらく「スマートフォンを昔のインスタントカメラのシミュレーターとして使う」という発想から開発が始まっている可能性が高い。
昔のインスタントカメラのように、飲み会なんかで「イェーイ」なんてやってる写真をパシャパシャ撮って、その場で現像してワイワイ言う感じ、あれを再現したかったのではないか。
日本で言えば「チェキ」とかが担っていた役割だ。
おそらく「飲み会で写真を撮る→その場で現像する→その場でみんなに配る」というインスタントカメラの作業フローをデジタルに落とし込んで行ったときの答えが、
- スマートフォンにインストールする『インスタントカメラ風の』カメラ・アプリケーション
- 撮った写真をすぐに仲間と共有できる仕組みとしてのSNS
この二つを同時に作ることだったのではないか。
あくまで個人的な推理だが、インスタグラムが持つSNS機能の本来の目的は「撮ったその瞬間、その場にいる比較的少人数の仲間たちが、各々のスマートフォンで写真を見ることが出来るしくみ」だった。私はそう考える。
だとすれば、インスタグラムのSNS機能がそれほど強力ではないのも納得がいく。
しかし、今のインスタグラムの使われ方は、当初、開発者が想定していたものとは違ってきた。結果オーライではあるが。
世の中には、よくある話だ。
「飲み会で撮った写真をすぐにその場で現像してみんなに配るというインスタントカメラの役割を置き換える」その当初の開発目的と、現在のインスタグラムの使われ方は違ってきている気がする。
飲み会の仲間に現像した写真を配る機能→ある種のマス・メディア(ソーシャル・メディア)としてのSNS機能、というシフトが起きたのでは、と推測している。
2015年現在、紙の上に印刷された雑誌からスマートフォンへ、という「読者の」移行が進んでいる。
それを感じたのは東京で電車に乗った時だった。
かつて、電車の座席に座って乗客が何をしていたかと言えば、少年は漫画雑誌を読み、大人の男はエロいグラビア付きの男性向け週刊誌を読んでいた。
今は全員、スマートフォンの画面を眺めている。
かつて「女性ファッション雑誌」が担っていた役割の一部をインスタグラムが担っている。
少年は、少年漫画を読む。
少女は、少女漫画を読む。
大人の男は、エロ雑誌を眺める。
大人の女は、ファッション誌を眺める。
スマートフォンが普及する前の、ちょっとした空き時間の過ごし方は、ざっとこんな感じだった。
女性ファッション誌を真面目に読んだ事は無いが、他に読むものが無くてパラパラと眺めた時の記憶だと、主な内容は、
- ファッションモデルが着る服の写真
- グルメ
- 女優や有名人のインタビュー記事
- 大判で、全ページ・フルカラー
こんな感じだったように思う。
大人の男は暇つぶしに「裸の女の写真」を眺めるが、大人の女は暇つぶしに「服を着た女の写真」を眺める。
理屈ぬきに本能的に楽しいんだろうな。洒落た服を着ているモデルの写真を眺めたり、旨そうなケーキの写真を眺めたり、有名人のライフスタイルを垣間見たりするのが。
まあ、食い物の写真は私も好きだが。
そういう女性の欲求をインスタグラムがデジタル的に満たしてくれているのではないか。
女性ファッション誌には「読者モデル」なる存在があって、その雑誌をとりまくエコシステムの中で、受け手が送り手の側に回ったりするらしい。
まさにSNS的発想だ。
デジタル・インスタントカメラという開発者の意図から離れ、現在のインスタグラム・エコシステムは、女性ファッション誌としての役割を担っている。
そう考えると、ユーザー(読者)の70パーセントが女性というのも、閲覧数ランキング上位を有名ファッションモデルが独占しているのも納得がいく。