こんな夢を見た-四種類の弁当。

1.

 僕は、東京の古い一人暮らし用のアパートに住んでいた。
 そのアパートは入り口から入ってすぐ左側に小さな流し台があり、ガラス戸をへだてて六畳間があった。六畳間には窓が一つあった。
 窓の横にはパソコンデスクが置いてあった。
 その夜、僕は帰り道の弁当チェーンで買った弁当を流し台の上に置いたまま、窓際のパソコンデスクに向かって座り、ネットに投稿するための小説を打っていた。
 入口と流し台に背を向ける格好かっこうだ。
 突然、真後ろに人の気配を感じてゾッとした。
(後ろに誰が居るのか振り返って確認しなくては)という思いと、(振り返るのが怖い)という思いが僕の心の中で合った。
 何者かが僕の両肩をつかみ、椅子いすの背もたれに押し付けるようにした。
 僕は立ち上がることも振り返ることも出来なくなった。
 真っ暗な窓ガラスに、一瞬、人の顔が映ったような気がした。
 突然、僕の後ろで肩を掴んでいた何者かが、車輪付きの椅子ごと僕を後ろに引き、くるりと反回転させた。
 何者かは、常に僕の後ろ側に立つような位置に移動しながら椅子を回転させたらしく、その姿を見る事は出来なかった。
 六畳間を真っ二つに分けるようにして、ゆかと地面がけていた。
 幅一メートルくらいの深いがけゆかに出来ていて、地中深く遠くのほうでドロドロの溶岩が真っ赤に光っていた。
「地獄だ」
 後ろの誰かが言った。低い男の声だった。
 大地の裂け目の向こう側には、流し台の上に、弁当の容器が四つ重ねられていた。
 その日、なぜか僕は弁当を四つも買っていた。
 全て違う種類だ。
「四つの弁当のうち、どれか一つを選べ」
 後ろの男が言った。
「四つのうち一つだけが正しい弁当だ。それを選べば、お前は助かる。間違った弁当を選べばお前は地獄に落ちる」
 僕は、椅子から立ち上がって地面に出来た裂け目の底をのぞきながら(どの弁当が正解だろう?)と思っていた。
 その前に、この幅一メートルの崖を飛び越えて向こう岸の台所まで行けるのだろうか、とも思った。
「早くしろ」
 後ろで僕をかす男の声がした。