現代日本に転生したスュンとアラツグ(ハーレム禁止の最強剣士!+)

1.

 俺の婚約者の尻は世界最高だ。
 別に、世界中の全ての女の尻を一つ一つ(……いや、真ん中で割れているから二つ、二つ、か……)調べたわけではないが、それでも断言できる。
 
 ある日曜日の朝のことだ。
 朝食を終えソファーに座ってコーヒー片手にだらだらと日曜朝のワイドショーを見ていた俺に向かって、彼女は、その世界最高の尻を突き出した。
(むうう……テレビに集中できん……)俺は思った。
「あれぇ……おっかしいなぁ……どこに置いたっけ……」
 彼女は何やらぶつぶつつぶやきながら、ワイドショーを見ていた俺の前を横ぎってテレビの横の戸棚を開けた。
 こんな場合、下手に「どうした?」とか「何してるの?」とか声をかけてはいけない。どうせ男の俺には見つけられない小物かなんかの探し物を手伝うになってしまう。
 俺は知らんぷりを決め込んで、くだらない出来事について大げさに話し合うテレビ・タレントらの顔に、意識を集中した。
 俺の婚約者さまは相変わらず「あれぇ」とか「おかしいなぁ」とか呟きながら、戸棚をのぞいてゴソゴソやっていた。
 まだ正式に結婚したわけではないが、このとき既に俺たち二人は同居生活を始めていた。俺も彼女もそれまで住んでいた住居を引き払い、この新婚世帯用のアパートに越してきた。
 ちょっと危ない仕事にいている俺は、他の同業者同様、いつ死んでも良いよう出来るだけ身辺を小綺麗こぎれいにしていた。具体的には、自分の持ち物を必要最小限に留めていた……商売道具と、服と、少しの本。文房具。自分一人分の食器類……それくらいだ。
 この新居にあるほとんどの品は、スュン(婚約者の名前だ)の持ち物か、同居を始めてから二人で買ったものだ。
 名前でも分かる通り、スュンは外国人だ。
 故郷はケルト地方らしい。
 だいぶ前に、ケルトってどこの国にあるのかと聞いたことがある。
「イギリス? それともフランス? ドイツ?」とたずねる俺に対して、スュンは「ケルトは、ケルトよ……ケルトの森が私の故郷」と言って、尖った耳をピクピク動かした。
 案外キチンと整理整頓された棚を、スュンが上から下へ、順々に覗き込んでいく。
 当然、下に行くにつれてスュンは前かがみの姿勢になり、結果、テレビを見ている俺の方へジーンズに包まれた尻を突き出す格好かっこうになった。
 プリップリの丸い尻が、ジーンズの生地きじを内側から押し上げ、生地がパッツン、パッツンに張って、はち切れそうなくらいになっている。
 大きすぎず小さすぎないこの適度なボリューム感、ジーンズを押し上げる肉の張り……真ん中の縫い目の食い込み……
 ……ああ……最高だ……最高だよ……スュン……
 俺は無意識のうちに、神に祈りを捧げるように両手を組み、そして両方の人差し指だけをピンッと前に突き出していた。
 ……駄目だ……た、たまらん……スュンに……俺の最愛の婚約者に……
 カンチョー……それは小学生の男子が、同じ小学生の男子にのみすることを許された聖なる友情の儀式……
 ああ。分かっている……分かっているんだ……大人の男がカンチョーをするのは犯罪だ。許されざる行為だ。
 大人の男が小学生の男の子にカンチョーをするのは犯罪だ。まして小学生の女の子にするのは重罪だ。
 大人の男が大人の女にカンチョーして良いのは、男が肛門科の医者で、女がその患者の場合だけだ。
 たとえ婚約者であったとしても、相手の同意なしでは許されない行為だ。
 しかし恐らく、スュンは許可しないだろう……「お願いだ! 一度だけで良いんだ! 一度だけで良いからカンチョーさせてくれ」と俺がどれだけ誠意をもって頼んでも、彼女は「ウン」とは言わないだろう。
 そもそも、カンチョーは不意を突いてこそだ。カンチョーされた瞬間、不意を突かれた驚きとかすかな痛みを伴ってカンチョーしてきた相手を受け入れなければ、聖なる儀式は完成しない。
 事前に許可をもらってのカンチョーなぞ、カンチョーとは言えない。
 ああ、でも、あの世界最高の両方の尻肉にはさまれたジーンズの食い込みのその中心線に、この両方の人差し指を、優しく、それでいてちょっとだけ力を入れてクイッと突き立てたい。
 その瞬間、彼女の世界最高の尻がキュッと締まり、同時に背筋がヒュッとり、スュンの柔らかな唇から「はうわっ」と驚きと微かな痛みをともなった声が漏れるのを聞きたい……
 ……駄目だ。大人の男がカンチョーなど……絶対やってはいけない行為だ。たとえ相手が婚約者であろうとも絶対に駄目だ。国連の人権条約に書いてあるかどうかは知らないが、非人道的だ。
 ああ、でもやりたい。
 この両ひとさし指で、スュンの尻肉の弾力を感じたい……
 誤解しないで欲しいのだが、俺は別にスュンのお尻の穴でエッチがしたいわけではない。
 俺は、お尻の穴を使ったエッチには興味が無い(少なくとも、今のところは)
 そっちの方は普通で良い。普通で俺は充分満足しているし、スュンも満足しているようだ。
 そうじゃない。そうじゃないんだ。
 俺は、ただカンチョーがしたいだけなんだ。
 あのスュンの、世界最高にまろやかなフォルムを持つ神が与えたもうた芸術的尻に、クッ、とやりたいだけなんだ。
 ちなみに、生尻にカンチョーは、よろしくない。
 あまりに身もふたも無さすぎる。
 第一、危険だ。
 人体の中心を縦に走る線……通称、正中線……は人体で最も弱くデリケートな部分であり、尻の割れ目は背面正中線の終点だ。
 その一番デリケートな部分に万が一、傷でもついたら、どうする?
 いや……駄目だ……最愛の婚約者にそんな危険な事は出来ない。
 スュンの、この大自然が与えたもうた奇跡の尻を傷つけるなど、この俺に出来ようはずがない。
 やはりカンチョーは布を隔ててこそだ。
 相手の体の安全を考えた場合、たとえばパンティーなどの薄い素材だけでは心もとない。
 最低でも布二枚、理想的にはデニム素材など厚手の布を通してが望ましい。
 ジーンズ越しなら、よほどの事がない限り相手の肉体に傷を付ける危険性は無いだろう。
 それに、デニムは女尻にょしりを包みこむのには最高の素材だ。内側から肉の圧力でもって生地を押し上げる尻と、それを封じ込めようとするジーンズとの間に発生する緊張関係が、この上もなく素敵すてきだ。
 一方で、カンチョーをする側にとって、デニムは危険な素材でもある。
 力の入れ具合、進入角度、打点などを一歩間違えれば、人差し指の脱臼、捻挫、場合によっては骨折の危険性もある。
 まあ、しかし、心配はしていない。
 俺は、幼少の頃より世界一厳しい道場で剣を振ってきた。握力には……つまり指の力には自信がある。
 それに、同じく幼少より厳しい修行に耐えてきた、たった一人の兄弟弟子と十二歳ころまで毎日のようにカンチョーをしたりされたりしていたため、どのような角度、速度、力の入れ具合で相手の尻の割れ目に指を突っ込めば、ぎりぎり自分も相手も傷つかずに最大限の効果を上げられるか熟知している……そういう自負がある。
 ちなみに、カンチョーは必ずしも尻の穴そのものを狙う必要は無い。
 ……いや、むしろ、穴そのものを狙うようでは、まだまだカンチョーに関しては素人と言わざるを得ない。
 真のカンチョラー(もしくはカンチョリスト、ラテン語でカンチョリアン)は、肛門そのものは狙わない。
 たとえば、打点をやや下方にずらし、会陰(通称、蟻の戸渡)あたりを狙う……そういうのも、なものなのだ。
 性器と肛門を結ぶ直線上にある通称、蟻の戸渡は、人体において他より末梢神経が集中している部位の一つだ。
 すなわち、神経学上、高い効果が見込まれるカンチョー・スポットでもある訳だ。
 しかも、性器と肛門の間のわずかな隙間を狙うには高度なテクニックを要するがゆえに、成功すれば高い達成感を得られる。
 ちなみに当然の事だが、カンチョーをするつもりが誤って性器に触れてしまったら、それはファウルになってしまう。
 後ろから忍び寄ってカンチョーをしたのに指先が性器に当たってしまうというのは、たとえば相手が(その時のスュンのように)何らかの事情で前かがみ、もしくは四つんいの姿勢を取っている場合、可能性が無いわけではない。
 カンチョーの指先が誤って性器に触れてしまう事をプロのカンチョラーやカンチョリストたちはスネーク・ショットもしくはゴールデン・ボール・アタックと呼び、もっとも恥ずべき行為として軽蔑していた。
 一方で……いやむしろ、それゆえに、というべきか……手練てだれのカンチョラーの中には、あえて性器ぎりぎりを攻めようとする者も少なくない。
 ファウルになるか、ならないか、そのギリギリを突いてスリルを味わうのもまた一興、という訳だ。
 俺はスュンの婚約者であるがゆえに、彼女の性器と肛門の位置関係は把握していた。
 しきりに「無いなぁ」とか「どこ行ったんだろう」とか言いながら相変わらず前かがみの姿勢でこちらに無防備に尻を向けて戸棚をさらっているスュンの割れ目を凝視しながら、俺は頭の中で、パッツン、パッツンのジーンズ生地に包まれた性器と肛門の位置をシミュレーションした。
(やはり狙うは性器と肛門の中間点……通称『蟻の戸渡』、か……)
 カンチョーの形に組んだ両手の、突き出した両ひとさし指の上にあごを乗せて、俺は予想ポイントを一心に見つめた。
 その時、前かがみの姿勢に疲れたのか、スュンは尻をストンと下に落とし、しゃがんだ格好で棚を探し始めた。
 当然、尻の一番重要な部分周辺はゆかすれすれの位置で下を向き、俺の座っている場所から見て、尻の上の部分が正面に来るような形になった。(それはそれで、ながめとしてはなものだったが……)
「ちっ」
 俺は無意識に舌打ちをしていた。
 こちらに背中を向けながら、尻そのものは下向きになり、しかもゆかとの間の距離が最小になる「しゃがんだ姿勢」を、我々カンチョラーは「ガード・ポジション」と名付け、カンチョー出来そうで、カンチョーし難いフォームとして嫌っていた。
(仕方がない……ターゲットを変更するか……)
 蟻の戸渡ほどではないが、尾てい骨のやや下の辺りも、悪くないカンチョー・スポットだ。
 この辺りにも末梢神経の集中ポイントがあり、さらに皮膚の真下には固い骨が突き出ているので中々に痛みを感じることが出来る。
 しかし半面、尾てい骨周辺は、お尻を一つの曲面として考えた場合あくまでその上方ぎりぎりの部分であり、もはや背中との境界線上とも言え、ふくよかな弾力にはさまれた肛門周辺の割れ目に比べると、どうしても突いたときの満足感に乏しいと言わざるを得ない。
 しかし、スュンが期せずしてガード・ポジションに入ってしまった以上、次善の策で我慢するしかない。
 俺は、カンチョーの型に組んだ人差し指の指先で自分のあごをグリグリやりながら、頭の中でシミュレーションを組み直した。
 ……まず、スュンに悟られないようにこっそりと俺のリーチの射程範囲内まで忍び寄り、こちらも「しゃがみ姿勢」まで体を落としながら、やや前かがみ気味に両腕を前へ突き出し、フローリングのゆかすれすれに両手を低空飛行よろしく走らせて、スュンの尻ぎりぎりの所でクイッと手首を上に返し、機首(人差し指先端)を上に向けて一気に急上昇……尾てい骨と肛門の間のジーンズの割れ目を狙う……
(やはり、問題は、どこまで低空飛行で我慢してスュンの尻とゆかのあいだ奥深くまで手首を潜り込ませられるか、だろうな……)
 どうせ狙うなら、なるべく肛門に近いところを狙いたい。そのほうが、スュンの、まるでA5クラスの霜降り和牛のようにバランスよく筋肉と脂肪が乗った尻のまろやかさをこの指先で堪能できると思うからだ。
 ……その時……
 突然いきなり、スュンがクッと振り返ってギロッと俺をにらみつけた。
 俺は急いでスュンの尻を凝視するのをめ、テレビの画面に視線を移した。
「あのー……さっきから、どこ見てるんですか?」
 スュンが言った……ちょっと、というか、そこそこ怒っているのが声色で分かった。
「どこ……って……テレビだけど……」俺は既に逃げられないと悟りながら、一応、無駄な言い訳をした。
「あのさぁ……私の事、甘く見ていない?」と、スュン。
「え? どういうこと?」
「良いこと教えてあげる。女って、後ろ向いていても、男が自分の体を凝視しているって分かるのよ……そういう生き物なの。知らなかった?」
「へええ……そうなんだ……」
「で、もう一度聞くわ……もう一度だけチャンスを上げる……ど、こ、を、み、て、い、た、の?」
「し……尻……」
「声が小さい! もう一回!」
「世界で一番好きなスュンさまの、世界で一番美しいお尻さま」
「……まったく……私が、真剣に探し物をしているっていうのに手伝おうともせず、ひとのお尻ばっかり見て……」
「良いじゃんかよ。減るもんじゃなし」
「出たっ! 男の『良いじゃんかよ。減るもんじゃなし』攻撃! 最っ低っ! あのねぇ、さっきも言った通り、女は後ろを向いてても、お尻を見られてるって分かるの! 気が散って探し物が出来ないじゃない」
「ああ、なるほど……」
「『ああ、なるほど……』じゃないわよ! もう!」
 それから俺は、いろいろ言い訳をしつつ妥協点をさぐり、午後は彼女の買い物に付き合って、俺はその荷物運びをする、という事で決着した。
 ……まったく……ダーク・エルフのくせに……浮遊魔法で何でも運べるくせに……