狼男さん、ごめんなさい。
「ヤバいっぺよ」
アレックスが俺にささやく。
「やばい? 計画通り、まんまと十五人いたゲス野郎たちは八人くらいに減ったじゃねぇか。あとはアレックスが特技の剣術でビュッ、ビュッ、ビュッ、ってやれば」
「無理だっぺ」
「無理? 何で?」
「さっきのシミュレーションは、あくまで『人間の盗賊』が前提だっぺ……狼男相手となると、さすがの
「お、狼男?」
よくみると、月に向かってお仕置き、じゃなくて遠吠えをしている男たちのヒゲがやけに濃くなっているような……って、あれ、ヒゲじゃねぇ……顔全部体毛で覆われだしてんじゃねぇか。しかも
「ワオーン」
十五人から互いに殺し合って八人くらいに減った男たちは、あっというまに狼の顔と爪を持った怪物に変身した。
「こ……このままじゃ、純潔を奪われるどころの話じゃないっぺ。
「へっへっへ、旨そうな人間の女だな……男のほうは何か臭そうでマズそうだが……」
そうそう、俺なんかマズくて臭いですよ。女二人置いてきますから、俺だけ逃がして下さいよ。
って、さすがに、そりゃ男の風上にも置けない発想だよなぁ……
……ん? 臭い? 風上?
そこで俺は閃いた。
今こそ神様に与えられたチート……究極奥義スパイラル・ヘアー・ワキガ・トルネード、ポー! を発動する時じゃないか……
ようし! ここで一発アレックスあんど見知らぬ少女(つるぺた)を助けて、逆玉の輿に乗りつつ、数年後成長した少女(つるぺた)をサイド・ワイフにするのも悪くない。
「アレックス! ここは俺に任せろ! 鼻をつまむんだ!」
「鼻をつまむ? 何の事だっぺ?」
「いいから早く! よしっ、いくぞー! 我が必殺の究極奥義! スッパーイラルゥーウ・ヘーアー・ワッキーガーア・トーオルネーイドオゥ! ポー!」
俺はNASAが開発したシルバーのサウナスーツのチャックを股間が見えるか見えないかくらいのギリギリまで下げ、後頭部のところで両手を組んで、腋の下を狼男たちの方へ向けた。
「うわ、馬鹿! いきなり半裸になって、ワオーン! 汚ねぇワキの下を見せんじゃねぇ! ワオーン!」
動物の本能だか何だか知らないが、狼男たちは遠吠えをはさみながら人間の言葉で俺に言った。
「うわあああっ! 気持ち悪うー! ワオーン! ワキ毛がくるくる回ってるぅ―! ワオーン! 気色悪うー! ワオーン!」
しかし、一向に俺のワキガで悶絶しない。
「何ィ! 馬鹿な! なぜだ! なぜ俺のスパイラル・ヘアー・ワキガ・トルネード、ポー! が効かないんだ!」
俺は叫んだ。そしてハッと気づいた。
ついさっき、風呂に入ったばかりだったという事に……そう。俺のワキガ・チートは、風呂に入ってサッパリしてから一時間のあいだは、使えないのだった。……それが俺のチート唯一の弱点!
「よ、よくも、上半身股間ギリギリまで裸になって、汚ねぇワキ毛と、汚ねぇチクビ毛で俺たちの目をよごしてくれたな! お前は食ってもマズそうだったから見逃してやろうと思ったが、お前から先に始末してやる!」
やばい! アレックス(自称Fカップ)とロリ少女(つるぺた)に、変に俺の男らしさを見せつけてやろうという
しかし、神は我を見捨てなかった……神、って言っても、俺の体を改造して変態チートをさずけた自称・神様、通称・オヤッサン、戸籍名・斉藤次郎左衛門にして根源的集合無意識体のことでは、ない。断じて、ない。
とにかく、どっかの神様に見捨てられなかったお陰で、俺の目の前に突然たらーんとツタっていうか、それ的なロープみたいな
ジャングルの王者的なヒーローが「アーアアー」とか言いながら木から木へと移動する時に使っている、アレだ。
幸いにして、俺は自称・神様、通称・オヤッサンと一緒に、ボクシング映画の金字塔ポッキーのシルベス太・ス太郎~ン並に特訓をしていたので、このロープみたいなツタみたいな茎を登っていく位は可能だ。
しかし、問題があった。
俺自身がツタを登って木の上に逃げるのは良いとして、女の子二人をどうするか、だ。
さすがに女の子二人を抱いてツタを登る自信は無かった。
(どうする? パッと見、清楚で上品なロリ少女か……超レア・イベント付の王女様か……)
俺は一瞬迷い、ロリ少女を脇に抱いて、ツタを登り始めた。
女の子を抱くとき、オッパイとか尻をさりげなく触ってセクハラしながら、「イヤーッ、セクハラ!」とか言われたら「バカヤロウ! そんな事を言っている場合か! 今は生きるか死ぬかの瀬戸際だろ!」とか正論っぽいこと言って頬っぺたをパッチーンて叩くっていうパワハラも同時に楽しむダブル・ハラをやろうと思ったが、勇気がないのでやめた。
俺は、なるべくセクハラに思われないような場所に手をまわして脇に抱きかかえ、スルスルとツタを登って行った。
「あっ、ドー君、なんで
ツタを登る途中、芥川龍之介の蜘蛛の糸っぽく下を見ると、アレックスが怒り心頭にタッチして叫んでいた。
おれも言い訳を叫び返した。
「す、すまん! そのお前の胸ん所でボヨンボヨンしている特大に重そうな二つの母乳製造装置と、両足付け根部分にあるスーパーヘビー級の割れ目入り肉ざぶとんと、よく見るとちょっとだけポニョポニョしてそうな下っ腹を持つアレックスを抱き上げる自信が無いんだ! 毎年、命日には必ず線香をあげるから、迷わずジ・エンド・オブ・赤ずきんちゃんしてくれ!」
「ムッキーッ! この裏切り者! バカ童貞! せっかく
「え? 何! 何だってぇぇぇ!」
俺は、いきなりの愛の告白アンド
(ま、ロリ女なんて、どこにでも居るからな……それよりレア・イベント、レア・イベント……)
俺に投げ捨てられたロリ少女は、木の幹に頭を打ち付け「ぐえっ」って言って、そのままグッタリと気絶して、運よく地面まで落ちることなく木の枝に引っかかった。
俺はスルスルとツタを伝って地面まで戻り、アレックスのFカップ巨乳の前で両手を広げて言った。
「アレックス……助けに来たよ……さあ、俺の腕の中に飛び込んでおいで。いっしょに木の上へ逃げよう……」
「こ~の~
女の全激怒がMAXアドオンされた拳が俺の頬にブチ当たり、俺は狼男たちが居る方向とは反対側へ三十メートルくらいフッ飛ばされた。
そのあと、アレックスは
「ア……アレックス! お、お前、木登りが出来たのか!」
「当然だっぺ!」
高度数十メートルの木の枝に乗って、アレックスが叫んだ。
「
「レ……レンジャー部隊出身だったのか……お前……」
「ヘッヘッヘ……彼女にも見捨てられたようだな……ワオーン!」
狼男たちが俺にジリジリと迫ってくる。
俺は、逃げた。全力で逃げた!
しかし、俺は知っていた……小学校一年のとき公園で遊んでいて、金持ちのババアが首輪も付けずに持ってきたチワワに追いかけられ、ふくらはぎを噛まれて全治三日の重傷を負ったとき既に、世界の真理について学んでいだ。
「人間は追いかけてくる犬からは逃げられない」
俺は必死で逃げたが、狼男との距離は徐々に狭まっていった。
この物語では無名! 二つ名はドーテー・オブ・ドーテー! チート持ちの主人公ドー君、ピーンチ!
……つづく。