青葉台旭のノートブック

映画「地獄の警備員」を観た

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脚本 富岡邦彦、黒沢清
監督 黒沢清
出演 松重豊 他

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感想

黒沢清の初期作品。デジタル・リマスター。
何と言っても黒沢清の最大の魅力は、『現実世界でありながら同時に異世界でもある奇妙な空間』を、日常のすぐ隣に作り上げる手腕だ。(と、私は個人的に思っている)
この初期作品にも既に十二分に発揮されていて、とても楽しめた。

毎日仕事をしているオフィスから壁一枚へだてた隣の部屋。
階段を降りて行った先にある地下空間。
ガードマンの詰所の奥。

異様な別世界は日常のすぐ隣に存在する。
恐ろしくもあり、同時に、妙に惹きつけられる異空間だ。
その異様な別世界を、光の当て方、影のつけ方ひとつで見事に表現する手腕が見事だった。

自動車

『現実感の無い不思議な風景を窓に映して走る自動車』という黒沢清映画おなじみのモチーフも、既にこの初期作品に見られる。
黒沢映画において、自動車は、この世とあの世をつなぐ『三途の川の渡し舟』だ。
その渡し舟に乗って主人公が商社ビルに初出勤する所から、物語が始まる。
今日から勤務する商社ビルそのものが、既に『あの世』である事を予感させる。
もう、冒頭からワクワクさせられる。

スウィート・ホーム

余談だが『地獄の警備員』の前作『スウィート・ホーム』も、自動車に乗って異界へ向かう主人公たち始まりだったような気がする。
ずいぶん前のことで良く思い出せない。
あれは、テレビの洋画劇場番組で観たのだったか、それともホラー映画好きの友人の家で観たビデオ・カセットだったか。
当時は、正直そこまで面白いとは感じなかった(と記憶している)
いま観なおしたら印象が変わるだろうか?
どうやら著作権をめぐるトラブルがあったらしく、そのせいか、いまだDVD化もBlu-ray化もされていない。

勤務先の商社ビル

『地獄の警備員』に話を戻す。

主人公が勤務する商社ビルそのものが『異界』であるという印象は、時々映し出されるビルの全景によって強化される。
何がどう変なのかは分からないが、とにかく、何かが変だ。
あれはミニチュア撮影だろうか?

ラスト

そして、ラスト・ショットが素晴らしい。
駆けつけた家族と抱擁する上司の横を通って、主人公が階段を昇って行く。
その余りにも絵画的にビシッと決まった構図に、異様な感覚をおぼえる。
非現実的な部分は一つも無いのに、まるでシュルレアリズムの絵を見ているようだ。

映画に階段が出てきたら、それは『黄泉比良坂』すなわち、あの世とこの世の境界だ。

何者かが階段を昇ったり降りたりする描写には、しばしば以下の二つの意味のどちらかが込められる。

  1. この世の人間があの世へ向かうという意味
  2. あるいは逆に、魔界から魔物が人間の世界へ侵入してくるという意味

そして階段の途中に立つという描写には、その人物が、人と魔物の中間に位置するという意味、徐々に人から魔物へ変化(へんげ)しつつあるという意味が込められる。

では、本作品の『階段の手前で家族と抱き合う上司、階段を昇って奥へ消える主人公』というラスト・シーンには、どんな意味が込められているのだろうか?

上司の居る手前側が『この世』で、主人公が昇っていく先が『あの世』なのだろうか?
それとも逆に、上司は未だ異界に囚われていて、主人公ひとりが現実世界に復帰したという意味だろうか?

背中を向けて立ち去る主人公は、どこへ向かい、何者(何物)になるのだろうか?

色々と想像が膨らむ、余韻のある良いラスト・シーンだった。

クラシック感

本作品には1950年代以前の技法・手法が積極的に使われていると感じた。
その古い技法・手法が、この作品の異世界感、異様さを際立たせている。

2021-07-27 00:04