青葉台旭のノートブック

セカイ系について

最近、ライトノベルとは何か? という事について時々考える。

その流れで、セカイ系について考える。

セカイ系の定義

どういう物語を指してセカイ系と呼ぶのか、その定義についてはやや曖昧な所もあるようだが、おおむね、以下のようなものだと言って差し支えないだろう。

  1. 自意識過剰気味な思春期の少年が主人公である。
  2. 同世代の少年少女との友情や恋愛、両親に対する反抗・葛藤など、主人公の身の回りで起きる私的な〈小さな物語〉と、人類滅亡の危機という〈大きな物語〉が直結している。
    例えば、クラスメイトに対する恋愛感情が人類の存亡に直接影響を及ぼしたり、親への反抗が人類の存亡に直接影響を及ぼす。
  3. 1995年に放映されたテレビアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」から大きな影響を受けたアニメ・ゲーム・ライトノベルなどの事である。

セカイ系の流行は終わったのか?

前島賢「セカイ系とは何か」によると、セカイ系の全盛期は「エヴァンゲリオン」放送直後から2000年代(ゼロ年代)半ばくらいまでの約10年間であり、それ以降は沈静化したらしい。

だとすると、セカイ系ブーム終了から既に15年が経過している事になる。

再びブームは来るのだろうか?

2021年現在、私(青葉台旭)の個人的な肌感覚は以下のようなものだ。
「将来セカイ系の再興する日が来るかどうかは分からない。しかし2021年現在においては、時代感覚に合っていない」

将来、社会と思春期の少年少女たちとの関係が変化して、再びセカイ系が脚光を浴びる日が来るかもしれない。しかし、現在の日本の空気感はセカイ系にそぐわない気がする。

もちろん個別に見れば、新海誠のように大ヒットを飛ばし続ける『セカイ系作家』は、これからもポツリポツリと単発的に出てくるだろう。

ただ、新海誠がどれだけ大ヒットを飛ばそうとも、彼に感化されたフォロワーが次から次へと現れてセカイ系作品を次から次へと発表する、なんて事にはならないと思う。

何故そう思うのか? 私自身、うまく筋道立てて説明できない。
ただ、なんとなく、そう感じるだけだ。

実は、セカイ系はロマンチック系?

たった今ふと思ったのだが、セカイ系の基本コンセプト……

『彼女の手を握ったり体を抱きしめたりキスをする事によって、地球が滅亡したり、逆に、滅亡の危機から救われたりする』

……って、何だか、とても素敵にロマンチックだなぁ。

このセカイ系の『ライトサイド』部分だけを取り出して物語を作り続ければ、ジャンルとして確立されるかも知れない。

一方、セカイ系の『ダークサイド』である『思春期のウジウジ感』も、これはこれで昔から文学青少年の一大テーマであり、既に確立されたジャンルだ。

結局のところ、この両者を……つまり、
「彼女との恋の行方が地球の存亡と直結している」という御伽(おとぎ)話と、
「思春期のドロドロした自意識」
を混ぜ合わせて偶然に出来上がってしまったカクテルの名、それが『セカイ系』だったのかも知れない。

ただ、一般的には、『御伽話』は『御伽話』として味わった方が安全安心だし、
『思春期ドロドロ自意識』にしても、たまに見せつけられて身もだえする程度なら、まあ悪くないけれど、四六時中それと向き合うのは疲れるし気が滅入る、
というのが本音だろう。

自意識過剰でウジウジしてる暇(ひま)なんて無い

今ふと思ったのだが、現代(2021年)の少年少女たちには、自意識過剰でウジウジしている暇なんて無いのかも知れない。

2000年前後の日本には、まだ、『こうすれば、そこそこ幸せに人生を全うできる』という、社会の決めてくれたレールがあった。

リアルに自分の人生と向き合わなくても、何となく社会が進路を決めてくれた。

2000年ごろの親たちにも、まだ金銭的余裕があった。

しかし、現代の少年たちは、一刻も早く自己を確立し、どういう人生を過ごしたいかというビジョンを明確にし、それに向かって一日も早く歩み始める必要があるだろう。

十四歳で棋士として天才・羽生善治に勝負を挑み、十八歳でスペインのサッカー・リーグに行き、二十歳でF1ドライバーになる。

一方で、大人たちが築き上げてきた旧来の組織、会社や地方自治体や国は、もはや全く頼りにならない。
大人たちに頼って安心できる事なんて一つも無い。

そんな現代の少年少女からすれば、2000年前後にセカイ系に熱狂した少年たちは、少々ゆとりが有りすぎるように見えてしまうのかも知れない。

巨大ロボを前にして自意識過剰に悩むセカイ系の主人公たちを見て、彼らはこう言うだろう。

「センパイ、なに余裕ブッこいてンすか? さっさとロボに乗って戦って下さいよ。それが嫌なら、どいて下さいよ。僕が代わりに戦いますよ。その代わり、センパイが欲しかったものは全部、僕が貰(もら)いますよ」

余談

今ふと思ったのだが『ファイトクラブ』って、セカイ系そのものではないにせよ、それに近い感じの話だったな。

ダジャレめいた話だが、セカイ系って、2000年前後には世界的な志向だったのか。

参考文献

前島賢「セカイ系とは何か」
Amazonのページ

2021-04-05 18:54