ハーレム禁止の最強剣士!

スュン、オリーヴィアに、バネ足男とクーピッドについて話す。

1、スュン

「ああああああああああーっ!」
 がばっ。
 絶望の叫び声を上げながら、上半身を起した。
「はぁ、はぁ、はぁ」
 息が荒い。
 あたりを見回す。
 カーテン越しの朝の光が、ぼんやりと室内を照らしていた。
 自分の体を見る。
 寝間着姿の上半身。
 下半身は、掛布団の下だ。つまり、ベッドの上。
 全身、汗でびっしょりだった。
「ゆ……」
 やっと、思考が追いついてくる。
「夢? い、何時いつから……夢?」
 水時計を見る……朝の六時。
「あ、朝からの出来事……ぜ、全部……夢……」
 がっくりと肩を落とし、スュンはベッドの上で頭をかかえた。
「と……とりあえず……ズロウス……買わなきゃ……」

2、オリーヴィア

「はぁ? バネ足男ジャックゥ? 何、言ってるの? スュン」
 オート麦のかゆを食べながら、オリーヴィアが聞き返す。
「あ、あの……それでは……『水晶のクーピッド』は……」
「さっきから、あなたの言っている事、全然わからないわ。『水晶のクーピッド』? 何よ、それ」
「あの……ですから……男女の愛情の力を、魔力に……」
 思わず、オリーヴィアがかゆを噴き出しそうになる。
「愛の力を……ぷぷっ……魔力に……ぷぷぷっ……ですって? ご、ごめん、それ面白すぎるわっ、ぷぷぷぷっ」
 スュンは、顔を真っ赤にしながら、オリーヴィアの笑いが収まるのを待った。
「いやー、笑った、笑った。私も、まだまだねぇ……思わず感情の抑制がかなくなっちゃったわ。エルフの森へ帰ったら『再教育プログラム』受けようかしら」
「あの、やっぱり全ては、夢だったのでしょうか?」
「夢だったのでしょうか、って私に聞かれても……」
 しょぼん、とするスュン。
 テーブルの前に座る部下をやれやれといった感じで見つめ、「はあっ」と一つ大きないきいて、オリーヴィアが言った。
「人間には『心理学』という学問があるそうよ。毎日毎日、誰がどんな夢を見たかというのを記録し続けるんだって。その偉い人間の学者先生によると、夢というのは、人間が無意識に抑圧よくあつした心の奥底の願望の表れなんだって」
「心の奥底の、願望ですか」
「それがエルフにどれだけ適用できるのか分からないけど……まあ、我々エルフだって、そういう『抑圧された願望』が無いとは、言いきれないでしょう? エルフ長老会や、エルフ社会全体、あるいは置かれた立場や、自分自身で規定した『あるべき自分』……でも、それが必ずしも本当の望みであるとは限らないから」
 そういうオリーヴィアの瞳に、一瞬何かうれいのようなものが浮かんだことにスュンは驚いた。
「夜に見る夢の中で『本当はそうしたかった自分』を開放して、それで昼間の自分を納得させられるなら、それは、それで、良い事じゃない?」
「本当はそうしたかった自分……ですか」
「さあ、夢の話はこれくらいにして、今日の予定を言うわ。朝食が終わったら、午前八時半までは自由時間とします。八時半に中庭に集合という事にしましょう。それから馬車に乗って、仕立て屋へ行きます」
(来たっ! 夢の中と同じ展開だ。絶対に、言うべき事は言わなきゃ!)
「あ、あの」
「何?」
「ズロウスだけは絶対にきますっ!」
 スュンの声が、食堂中に響き渡った。
 しーんと静まり返る。
 男のエルフも、女のエルフも、口をあんぐり開けてスュンを見ている。
 驚いて侍女メイドが落とした盆の上の食器が、ガシャン、と大きな音を立てた。

青葉台旭

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